終章 翁の目に映る光景が蛇足だとしても
決着から幾月が経っただろうか。
幾年月も繰り返された、入れ替り。結果を受け入れるだけで感傷はない。
あの日、絵師は泣いていた。むせび泣き、動かなかった。
話にならず、ただ結果だけを記させると、「あれを見て何も思わぬのか」と、翁を睨むだけの気概を見せた。
だが二人の翁は思う。何度繰り返したことかと。それでも我らの道筋は変らず、背を向け殺し合っていると。
落胆でもあり、諦めでもあり、納得でもあった。
だからかも知れない。
今日あの仕合場に呼び出され、お互いの姿を見た時、期待が胸に膨らんだのは。
「感謝はすれど、恨みはございません。ただ、次代の見せしめに」
対峙したのは十にも満たない数人。先頭に立つ濃藍の装束からは、琴の音のような澄んだ声が響いた。
その胴には、血に汚れた紺碧の装束が
後ろに並ぶ数人の紺碧の装束は、腕に濃藍の端切れを巻いていた。その者達は、身じろぐ動作がおかしい。どこか健が切れていたり、欠損している。だが強者であると知れた。
恐らくあの日散った男が、選抜の際に殺すはずだった相手を生かすためにしたことだろう。どうやって逃がしたかは分からないが、装束を脱ぎ、手が上がらず足を引きずれば、もはや里のものとは思えない。顔など知らないのだから。
結託したのか!
翁は震えた。
眼前の者は、これから我らに刃を突き付ける。この皺がれ刻んだ古来からの道筋に。背を見せず対峙して、時代を
二人の翁は互いを見やり、歓喜した。
◇
絵師の日常は相変わらず、売れないというものだった。
ただ、あの日を境に、何人かがたまに足を止め、一枚の絵を買っていく。その度、絵師は同じものを描いた。
大木に背を預ける美しい女性。その大木の反面には一本の刀が刺さっている。
あの日の金で染料は青を使い、必ず装束は青で塗っている。絵の具を変えれば金になるという提案にも、「これでいい」と首を横に振った。
買う人は、その木の反面に自らを描くのかもしれない。
だが絵師は、その反面に立つ濃藍の男を、その二人の間にたゆたう愛を生涯忘れない。
絵はこう名付けられている。
『背中合わせを何度でも』
背中合わせを何度でも つくも せんぺい @tukumo-senpei
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