777字のいいわけ

飯田太朗

777字のいいわけ

 さて、何から話そう。

 僕が小説を書き始めた理由は前に話したかな。小学二年生の頃に父の勧めで星新一を読んで影響を受けたんだ。でも本格的に書き始めたのは高校生の頃。公募に挑んだのは大学生の頃だったな。

 振り返ってみると山ほど書いたよ。くだらない、嘘ばかりを、山ほどね。

 やめようかと思うことはなかった。この間までね。ただ本当に、つい二日くらい前、KAC20236の『茶わんの中』を書き終わった頃にふと、つまらなくなったんだ。いや、作品がつまらなかったわけじゃない。出来としてはいい。ただ、何か、心が、萎えたんだ。

 来月三十一になる。中年というにはまだ早いけど、一足早く「中年の危機」が来たのかもしれない。

 思えばむなしい創作人生だった。

 何も得られなかった。時間ばかり浪費した。高校や大学の同期が人工知能の研究をしたり起業したり山手線の内側に家を買ったりしてる中、僕は一文にもならない話を書いていた。結果、どうだ。僕は障害者雇用で、三十代なのに新卒以下の給料で働いている。

 何をしているんだろうと自分でも思う。

 僕は病気で死にたくなったことがあって、何度か実行にも移したけど、死ぬにしてもつまらない。何のために生まれたのだろう。

 母に「産まないで欲しかった」と言ったことがある。ひどく泣かれたが、今も気持ちに大きな変化はない。

 こうしてこれを書いている最中も、ネットの端に怪文書を流して、意味のないことを、と思っている。僕は無駄だ。無駄の塊だ。

 でも、ただ。

 これが、僕なんだ。

 無駄でいい。僕という「遊び」があるからみんなの人生が彩られる。

 僕の創作は無駄だ。価値がない。ただ、だからこそ誰も構えることなくこういうのが読める。

 無駄でいい。遊んでいていい。そうして書いたこの言葉が、いつか何かに変わるから。書かなかったら、何にもならない。

 そんないいわけをして、これからも書いていこうと思う。

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777字のいいわけ 飯田太朗 @taroIda

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