私の自慢の「いいわけ……」

やまたふ

私の自慢の「いいわけ……」

「ちょっとそこのキミ」

「はい?」


 本屋に寄った帰り、私は知らない男性に呼び止められた。


「モデルの仕事に興味はない?」

「えっと……」

「お願いだ。ひとめ見た瞬間にビビッときた。お金も払う。ぜひとも今からうちのスタジオに来てくれ!」

「……は、はい」


 曰く、彼は雑誌の編集者ディレクターをしているらしい。


 それにしても驚いた。まさか現実にこんな展開があるのかと。

 しかも、それが自分の身に降りかかるのだから人生は奇妙だ。


 なにより、はっきり言って私の容姿はたいしたことない。

 スタイルだってよくはないし、笑顔も得意じゃない。


 それなのに、いったいどうして私なのだろう?

 パッと見渡しただけでも私よりキレイなひとが何人も歩いていたのに……。



「じゃあ撮るよ。ポーズは適当でいいから」


 あれよあれよという間に撮影が始まる。


 そう言われても……と思いつつ、雑誌やテレビで見たことのあるポーズをぼんやり思い出しながらぎこちなく身体を動かす。


「うん、いい! すごくいいよ!」

「……あ、ありがとうございます」


 ディレクターは終始ご機嫌だった。

 編集なのに自分で写真も撮るのか、と思ったが、キミだけは自分で撮りたいと言っていた。


 わからない。本当にわからない。

 いったい私のなにがこの人をこんなに惹きつけるのだろう。


 ……でも、悪い気はしない。


「ああ、やっぱり思った通りだ。キミは最高だ」


 出来上がった写真を眺めながら、ディレクターが恍惚の表情を浮かべる。


「ほら、キミも見てごらん」

「はい……」


 いささか緊張しながら写真を受け取る。

 果たしてどんな出来栄えとなったのだろうか……?


 ――と。


「…………え?」


 思わず目が点になる。


 そこに映っていたのは、頭部のどアップばかりだった。


 ……ミス?

 いやいやまさか。だとしたらこんな自信満々に見せてこないだろう。


 では、これはいったい……。


 不思議に思い、ディレクターの顔を見る。

 すると彼は私の頭を掴み、こう言った。


「ああ、やっぱり……目だ」

「………………」


 ………………あ、はい。

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私の自慢の「いいわけ……」 やまたふ @vtivoo

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