エクスキューズ

惟風

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「違うって愛香はただの幼馴染で妹みたいなモンなんだ、浮気とかそんなんじゃないよ」

 達也は大げさな身振り手振りで、いかに自分がやましくないかをまくし立てる。安アパートで壁が薄いらしいのに、そんな大声を出して良いのかな。まあ私の知ったこっちゃないけど。

「へえ、アンタ妹分と寝るんだ」

 バッチリ情事のシーンが写った画像をスマホに表示させて突きつけると、達也は目を白黒させて黙りこんだ。粗い画質だけど現場は明らかに彼が住むこの部屋で、だから私は一刻も早くここを立ち去りたかった。

「言っとくけど別にアンタのスマホ盗み見したわけじゃないから。愛香さんが送り付けてきたんだからね」

「嘘だろ……」

 達也はみるみるうちに青くなった。

 馬鹿な男だと思う。

「『ゴメンたっくんと間違えた』とか言ってたけど、絶対わざと私に送ったんだよ」

 牽制だかマウントだか知らないけど、下劣なことしてくるなと思う。ゼミの飲み会で一度会った時は、サバサバを自称してるねちっこい女の典型的みたいな奴だった。

 そういう本性を見抜けない愚かな男と少しでも付き合った自分が心底恥ずかしい。

「良かったね。今日限りでアンタとは別れるからもう浮気にはならないよ。愛香さんとお幸せに」

 私は立ち上がった。

「待って、待って誤解だって別れるなんて俺は承知しないからな」

 どの面下げてそんなことを言えるのだろう。私の気持ちは変わらない。一秒だってこんな男と同じ空気を吸いたくない。


 勢いよく部屋の扉を開けると、そこには愛香が立っていた。

 『違うの』とでも言いたげな顔で後退り、大きく首を振っている。

「聞き耳立ててたんだ、どこまで品が無いのよ」

 吐き捨てた私に向かって、愛香は鋭く小さな歯がびっしりと並んだ口を大きく開けて見せた。



 愛香――いやラブカだ!

 それは男を寝取った癖に尚も言い訳をしようとしている鮫だった!

 エクスキューズいいわけ・シャークだ!


 私はすぐさまバッグから拳銃を取り出して愛香に発砲した。

 恐ろしく頑丈な牙に当たった弾は跳ね返り、私の背後の達也を貫いた。短く悲鳴を上げて彼は倒れた。

 愛香の雄叫びが、建物を震わせる。

 脂汗と共に笑みが溢れた。やり口が汚いのは気に食わないけど、強い奴は嫌いじゃない。

 男なんてもはやどうでも良い。これは、私のプライドの問題。

「来なさいよ。まどろっこしいことしないで、決着つけようじゃないの」

 私は改めて銃を構えた。


 女同士の戦いが、今始まる――



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