かこう。えがこう。かきたいから。

Y.T

 作品を描きたい。

 面白い作品を描きたいなぁ、と思う。

 書籍化って響きに憧れがあるし、本屋に自分の描いた作品が並べば、喜ぶと思う。

 でも、何というか、やっぱり、面白い作品を描きたいなぁ、と、思うのだ。

 誰にとって?

 誰にとって、なのだろう。

 正直、自分が描いた作品は面白いと思う。何故なら自分で面白いと思う内容を描いてるのだから、面白いと思っていないわけがない。

 しかし、他の人にも面白いと思ってもらいたい欲がある。


 最初に投稿した時、一人も読んでくれなかった。当たり前だ。描いて置いていただけなのだから。

 我慢出来ずに最初の頃、自主企画に積極的に参加した。他の人達の作品に足跡を残したりもした。読んでくれる人達が現れた。

 嬉しかった。

 星をつけた。

 星が帰って来た。

 レビューを書いた。

 レビューが返ってくる事は少なかったが、レビューを書いてもらおうと期待するような人達が自分の作品に足跡を残してくれたりもした。

 もっと読んでもらう為に、エッセイを頻繁に書いた。

 多くの人達が喜んでくれそうな綺麗事をひたすら書く事もあったし、疑い深い人達の警戒心を緩める為に下心を吐露したりなんかもした。

 世の中の流れに逆らうようなものも書いたし、センシティブな事に対する自分の意見も包み隠さず書いたりした。自分の過去の恥なんかも書いたりしたし、世間に対する文句も言った。

 とにかく、色んな内容のエッセイをめちゃくちゃ書いた。

 ぐちゃぐちゃ、だった。


 効果はあったのか。

 あった。

 相変わらず評価してくれる人達は少ないものの、それでもPV数は格段に伸びた。

 その時には既に、読まれる事自体が目的に挿げ替わっていた。

 沢山評価されたかった。

 星が、ハートがつくだけで、嬉しかった。

 でも思った。

 今の自分の作品は、面白くない、と。

 それに気づいた瞬間、全てが嬉しくなくなった。星がつこうがハートがつこうが、それは単なる戦略だ。自分の作品が面白いかどうかとは無関係なのだ。

 もちろん今でも星の数が関係しそうなイベントとかでは、そういう事をやる。他の人達がしている事をしない、というのはぬるま湯に浸かり、怠けているのと同じだと感じるからだ。

 他にもそう思っている人達はいるだろう。読まれる事に情熱を感じている人達は、その努力をしない人達を軽蔑しているはずだ。何もしないのに不平不満を喚いてるだけの無能、そんな風に。読まれない事に腹を立て、その理由を自分に探さずに、まるでぬいぐるみに八つ当たりをする子供を見るような感覚でいるはずだ。


 でもやっぱり、面白い作品を描きたいなぁ、と思う。

 色々な自分の作品に、色々な人達が集まって、色々とチヤホヤしてくれると、気分が晴れ晴れする。しかし本当に面白いと思ってくれてるかは、わからない。自分が面白いと思う作品を描きたい。読んだ人達にも、面白いと思ってもらいたい。

 だから過去の作品を数回描き直した。

 だから過去に自分が面白いと感じていた作品であっても、今の自分が駄作だと思う作品は非公開にした。

 だから過去に目立つ為だけにした自分の発言を全て、削除した。

 他の作者さんの作品には足を運ばずに、自分の作品を描く事に、専念した。筆力を伸ばす為に、あらゆるインプットをした。 

 PV数は格段に減った。

 それで満足か。

 満足ではない。

 やはり読んで貰えなければ、自分の作品が誰かにとって面白いのかそうでないのか、判断ができない。

 だからイベント中は読み合いをした。

 目立つ為の痛い発言もした。

 PVが戻った。

 むしろ、以前よりも増えた。

 星やハートの伸びは少ない、というか以前よりも評価される数が減っていたりする。それでもPVだけは伸びた。SNSの宣伝の効果かも、とも思う。SNSの更新自体は毎日続けていたから。

 それだけなのか。

 それだけであって欲しくない、と願う。

 以前よりも面白いものが描けるようになっている事を、願う。

 作品を描き終わり公開すると、清々しい気分になる。しかしその後、大丈夫か、と思う。公開した事を後悔する事もある。

 十分に面白いものが描けているのか、と、不安になる。布団に入り眼を瞑ってもその思考は続き、良からぬ事を、余計な事を考える。そんな脳内で行う深夜の散歩に疲れ、いつしか自分は眠りにつくのだ。

 作品を公開した日の夜は、いつもそうだ。

 しかし、そんな事を一々吐露するわけにはいかない。

 近況ノートなどでは、ふざけた事、頭の悪そうな事、明るい事、ポジティブな事を発言せねばならない。ネガティブに寄る人達は少なく、皆ポジティブへ向かおうとするのだ。

 本当にネガティブな弱音など、見せるわけにはいかない。それを売りにするエッセイを書く事は、もう辞めたのだから。たまに抑えきれずにヒステリックに支配される事もあるが、それは良くない事だと自分を戒める。


 本気でやろう。

 本気で面白いものを描きたい。

 筋肉を鍛える時の様に、本気で、上手くなりたい。

 体を鍛える目的は、体の限界値を増やす為だ。作品でも同じ事が言える。昨日の自分よりも、今の自分をもっと、前へ、進めて行きたい。自分の作品をもっと、先へ進めたい。


 自分の作品の評価が少ない事、ふとした事で停滞するという事実、それをアンラッキーだとは思わない。

 何かで隠し。

 何かを求め。

 何かを妬み。

 何かに怒り。

 何かに渇き。

 何かを貪り。

 何かにうんざりする。

 一見、不幸とも呼べるこの七つの事柄は全て、自己の不満によるものだ。

 不幸ではない。ただの感情だ。

 それを、上手く使いたい。

 上手く抑えたい。

 上手く出したい。

 上手く、扱いたい。

 文字の意味、言葉の意味、文章のルール、文章の効果、それらと組み合わせ、何か、凄いものを作りたい。

 凄く、面白いモノを、創り出したい。


 だから続けるのだ。

 だから辞めないのである。

 この文章が言い訳になるかどうかは、未来で決まる。


 だが、そんな事は、どうでも良い。


 おれは、面白いものを、描きたい。

 

 

 

 

 

 

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