短編86話  数ある振り回しまくりアンラッキーセブン

帝王Tsuyamasama

短編86話  数ある振り回しまくりアンラッキーセブン

「ん~もうたべらんねぇふぇぐぅ~すぴすぴ」

雪伸ゆきのぶ遊ぼー!」

「んが~ぺちぺちしょっかんたまりまふぇぐぅ~すぴすぴ」

「遊ぶぞ雪伸ー! 起きろー! 起きろったら起きろー!」

「んぁ~ですからぺちぺち、ぺ、ぺちぺち? いでででこらぺちぺちやめぇーい!」

 せっかく清中江きよなかえ 雪伸ゆきのぶである俺が、ごはん食べていた夢を見ていたというのに、両ほっぺたぺちぺち攻撃で起こしてきたこいつは、七福ななふく 有澄あずみだ。

(今日はアンラッキーセブンの日かっ……)

 説明しよう! アンラッキーセブンの日とは、七福有澄さんが俺を朝から起こしに来る日のことである!

 定期的なものではなく、有澄が事前に遊ぼうと言ってきた日か、なにかイベントがある日か、ただのノリな日かなどに、襲来してくるのである!

 なぜアンラッキーセブンなのかと言うと、それは七福有澄さんという、有澄がいかにもラッキーセブンさんな名字を持っているからである!

 ほっぺたのダメージ的な意味なだけであり、決して本人を嫌っているわけではないので、誤解しないように!

「雪伸! 遊ぼう!」

 それも、こうして目を輝かせながらである! 昔からずっとこの輝き具合である!

「……なあ有澄」

「どうした、早く遊ぼう!」

「確かに、春休み遊ぼうという話はした」

「だから遊ぼう!」

「だがそれは、春休み初日の朝七時台からなのかぁ?!」

「私は早く雪伸と遊びたい! だから来た!」

 ああぁ~……いやまああのね? 俺春休み明けたら中学二年生だし、同級生女子に朝っぱらから起こしてもらうっていうのは、悪い気はしないさ?

 でもさぁそういうのってほら、起きるまで優しく見守っているだとか、ほっぺた攻撃するにしても、ゆっくりぷにってするイメージとちゃいます?!

 超高速で両ほっぺたぺちぺちて……しかもおはようよく眠れた? とかじゃなく遊ぼう遊ぼうだぜ……?

(俺が求めるヒロイン像は、どこか間違っているのか ライトノベルタイトル風)

 長い髪が下ろされつつ、上からのぞき込んでくる部分だけは、俺が求めるヒロイン像に、多少近いかもしれないが。

「わあったわあった、起きます起きます」

 俺はここで、ようやく体を起こした。おはようございまーす。

「何して遊ぶ!?」

 有澄は今日は、水色のセーターに……白いスカート? ひざ下までくらいの。

(スカート装備なんて、珍しくないか?)

 って一瞬思ったが、そうか俺この前、学校以外でスカートは履かないのかとか、話の流れでそんなこと聞いたっけ。

 ちなみにその時の答えはこうである。『雪伸と思いっきり遊びたいから、最近履いてない!』……俺そこまでアウトドア派極振り、ってわけでもないんだが……?

(小学生くらいのときだったら、スカート履いていた気がする)

 …………俺じゃなくて、有澄がだぞ? とにかく、俺がちょこっと言ったことでも、こうして実行してくれるところは……ま、まぁ悪くないな!

「朝ごはんくらい食べさせろ」

「食べたら何して遊ぶ!?」

「食べながら考えさせてくれぇ」

「早く遊ぼう!」

「食べさせろぉ!」

 前々から遊ぼう遊ぼうキャラではあったが、なんか最近、もっと遊ぼう威力が増している気がする。


 俺は水色パジャマ装備から、紫色のフリース・黒のジーパン装備にチェンジ。

 有澄って、俺の中でのイメージでは、少し身長が小さいはずだったのに、なんだか最近、俺とほぼ変わらなくなってきたような。

 今日も洗面台にまでついてくるときに見てみたが、身長差ねぇんだよなぁ……。

(俺もう成長止まったのか?!)

「なあ有澄」

「何して遊ぶか決めたか!?」

 ひとまずそれは置いておいてっと。

「最近、身長、俺と並んできたか?」

「それがどうした?」

「……ふと思っただけだがっ」

「雪伸と遊べるなら、身長なんて気にしないぞ!」

「だと思ったよ……」

 全然眠くなさそうだな、有澄。


「おはよー」

「おはよう雪ちゃん。ちょうど朝ごはんできたところよ」

「うぃー」

 母さんが台所から、朝ごはん完成のお知らせをしてくれた。

「あずちゃんも一緒に食べるでしょ?」

「食べる!」

(もう慣れた……)

「はい、これあずちゃんの分ね」

 木の四角いおぼんに乗せて持ってきたのは、あんことバターが乗ったトースト・ポテサラポテトサラダ・ひじきの煮物・と、はしとひっくり返ってるトラ柄ガラスコップ。

 有澄は俺がいつも座っている席の左隣に座った。いつものことだ。

 俺の朝ごはんは、すでにテーブルの上に乗ってある。俺のコップはコアラ柄。

「いただきます!」

「召し上がれ」

 俺より早く、てか弟の章彦あきひこや父さんはまだ起きてないっぽいから、我が家軍団より早くいただきますして食べ始めたぞそこの有澄さん!

(もう、慣れたっ……)

「ふぉいひぃ!」

「よかったわ。スープも飲む?」

「んむ!」

「雪ちゃんも飲む?」

「飲むー」

 って有澄の食べっぷりを見てないで、俺も食べよう。

「いただきまーす」

「召し上がれ」

 では初手ひじきから。もぐもぐ。いつもの安定の味である。給食のと似ている、絶妙な濃さ。

「オレンジジュースにするか?」

「んむ!」

 ということで、有澄のトラコップを手に取り、ダイニングテーブル中央に置いてある、透明ポットに入れられしオレンジジュースを召喚。

 にゅっと先端をずらしてとぽとぽ~。

「ほれ」

「ん!」

 俺のもコアラコップにとぽとぽ~。

「あずちゃんが来てくれると、雪ちゃんが学校お休みの日も早く起きてくれて、助かるわぁ」

「んぐっ。雪伸は、朝から私と遊んでくれる!」

「しゃーなしなしゃーなし」

 そんなにもいいもんなんかねぇ? 雪伸くんと遊ぶぅというのは。


「ごちそうさま!」

「お昼ごはんも食べていく?」

「食べる!」

(もう……慣れウッウッ)

「んぐんぐ……なんふぁよ」

「早く遊びたいっ」

 基本的に近距離なんだよなぁ、有澄。

「あずちゃん、一緒にお片づけする?」

「する!」

 母さんの提案後、すぐに有澄は自分の食べ終わった食器を、おぼんごと流しに持っていった。

 母さんが食べ始めたのは俺たちよりも少し後だが、トーストの量が少なかったこともあって、

「もぐもぐごっくん。ごちそうさまでしたー」

「雪ちゃんもあずちゃんと一緒に、お昼ごはんを食べるわよね?」

「はい」

 俺たち三人が、ほぼ同時に食べ終わった形となった。


 有澄が食器を洗い、俺はそれを受け取りゆすいで、ラックに立てていく連携プレイ。

 母さんは……冷蔵庫とか棚とかあちこちいろいろしてる。

 この連携プレイも、アンラッキーセブンの日に割と行われるが、これやってるとき……まあそのなんだ。結構~有澄と手が当たるんだよなぁ。

 俺だけなんかねぇ、有澄と手が当たってどきどきすんのって。

 ちらっと横目で有澄の顔を見てみた。いつものるんるん顔だった。


「何して遊ぶ!?」

「ん~」

 場所を俺の部屋に移して、俺がベッドに腰掛け、有澄は俺の勉強机備え付けのイスに座って、こっちを見ている。

(やっぱりこう……理想のヒロイン像からは遠い気がする!)

 例えばさほら! 優しくて世話焼きとかさ!

(……ボタン外れそうだったとき、縫ってくれたな)

 たま~に見せてくれるギャップとかさ!

(……今日スカート装備だなぁ。あんなちょろっと言っただけだったのに)

 ドジっ子要素とかさ!

(……ドジじゃないが、底抜けに明るいな)

 賢い優等生とかさ!

(……実はテストの点数いいんだよなぁ……なぜなのか聞いたら、こんな答えだった。『やることやって、早く雪伸と遊びたい!』)

 ……ひょっとして有澄って……結構理想のヒロイン像に近いのだろうか!?

(しかし本当にそうなのか?! なんか違う気がするんだが?!)

「早く遊ぼう!」

「んん~」

 俺は~……もちろん有澄と遊ぶのは全然構わないんだが、なんていうか……一緒にいてるだけで充分楽しい、みたいな?

 有澄はなんでここまで、遊ぼう遊ぼうなんだろうか?

「なあ、有澄」

「決まったか!?」

「の前に、聞きたいことあってさ」

「なんだ?」

 って、どう聞いたらいいんだろうか。

 有澄は両手をひざに置いて、ひじを伸ばしている。

「有澄はさ。どうしてそんなに、俺と一緒に遊びたいんだ?」

「楽しいから!」

 シンプルイズベストすぎぃ!

「他の友達とは?」

「誘われたら遊ぶけど、誘われてないなら雪伸と遊びたい!」

 全世界の人々様。有澄さんと遊んでみるというのは、いかがでしょう?

「俺と遊んで楽しいのと、他の友達とでは、なにか違う楽しさなのか?」

「雪伸と遊ぶのが、いちばん楽しい!」

 うれしいこと言ってくれんじゃねぇか……でもそれ二番手以降の人が、ちょっとかわいそうな気がゲフゴホ。

「そん~なに、俺と遊ぶの、楽しいか?」

「楽しい!」

(ふむ……)

「有澄。ちょっとこっち来てくれ」

 俺はここで、腰掛けていたベッドをぼふぼふ。左隣に来るよう誘導。

 すぐさま有澄は来てくれて、その近距離のまま、俺をまっすぐ見ている。相変わらずのうきうき具合で。

「来た! 何して遊ぶっ!?」

(ふむ…………)

「有澄。もうちょっと、こっちに寄れるか?」

「これくらいか?」

「もっと」

「こうか?」

 もうがっつり有澄の脚と俺の脚が衝突済み。

「俺は~……さ?」

 さ、さすがに近すぎて、これはどきどきのどきどきですな。

「有澄と一緒に遊ぶのは、俺も楽しい。でもなんていうか……有澄と一緒にいるだけで、もう楽しいっていうか……」

 なんかうまい言葉にはできなかったが、思っていることを言った。

「私もそうだぞ?」

「そうなのかよっ」

「もちろんだ!」

 もちろんなのかっ!?

「雪伸と少しでも長く一緒にいたい! 雪伸と一緒にいると楽しい! 雪伸のことを考えながら寝たら、朝早く起きる! 私は雪伸といっぱい遊びたい!」

 実にるんるんうきうきした表情で、声のトーンもいつものはりきり具合で、だけど……そんなことを、まっすぐたくさん、俺に言ってくれた。

(この至近距離でっ)

 こんなこと言われちゃあさあ……

「雪伸っ?」

 ぎゅってする以外の選択肢、ないっしょ。

 俺は左手を有澄の背中辺りへ、右手を有澄の頭に回して、少し抱き寄せた。

「今日も俺は、七福有澄さんに振り回されっぱなしだっ」

 なんでこんな元気まんまんな同級生女子を、好きになっちゃってるんだろうな、俺。

「……振り回されてるの、私の方だ」

「なんだとっ?」

 あれ、いつもよりも少し、ゆっくりな口調?

「毎日雪伸のこと考えてる。雪伸のこと考えると、じっとしてられない。雪伸と一緒にいたい。雪伸と一緒に楽しく過ごすことが、今の私の生きがい」

 ……こんなにまっすぐに、俺と一緒にいたいなんて言ってくれるの、有澄ただ一人だけだ。

 もちろん俺も有澄と一緒にいるのは楽しいから、俺はちょっとだけ顔を離して

(ぷくっ、有澄そんな表情もできるんかよっ)

 てれて上目遣いだった有澄の顔が見えたところで、俺からおくちを重ねに向かった。


「……どうしよう雪伸」

「どうした?」

「雪伸がそんなことしてから、私、雪伸と一緒にいたすぎて、どうしよう」

 そのうち、一日が二十四時間では足りませんとか、言い出さないよな?

「……彼女さん、に~……なってみるか? そのうち落ち着くかもしれないぞ」

 …………うわ~。なにも言わずにうなずく有澄かわいすぎてやばすぎ。こっちもどうしようだぞこれ。

「かっ、彼女さんになっても、遊んでくれる?」

 ごめ。それは吹かざるを得ない。

「彼女さんっていうのは、だれよりも一緒に遊ぶ仲なんじゃないか?」

 たぶんね? こんな提案したの、有澄が初めてだから、詳しくないけど。

「……今日も、遊んでくれる?」

「もちろん」

 有澄はゆっくりと、俺の背中に両腕を回してきた。とても高速ほっぺたぺちぺち者と同じ手とは思えん。

「……やっぱりもうちょっと、こうする」

「どうぞどうぞ」

 有澄の髪つやつやだなー。さわさわしとこ。さわさわさわ。

 え、なんでそこでおでこを俺の右肩にぶつけてくるんだ? かわいいからいいけど。

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