第28話

 敵は消失した。レナが部屋の中を見て回っている。俺はその様子を視線で追っているだけ。疲れて億劫なのだ。


 レナが俺に言った。


「ねぇ。願い事って何処ですればいいの? 誰が叶えてくれるの?」


 俺は苦笑い。


「それなんだけど……」


 俺は言い淀む。言って良いものかどうか。レナが俺を見ているので俺は正直に言った。


「さっきの『虫喰い』っていう化け物が流した嘘だ」


 レナが絶句する。


 そう。あれは獲物を。特に人間を餌にしたいがために流された虫喰いの嘘だ。


「はた迷惑な生き物もあったもんだよ。まったく……」


 俺は天井を見上げる。レナが言う。


「それじゃあ……私の弟はどうなるの?」


 それがあったな。俺は視線をレナに向けて言った。


「俺に任せてくれ。俺が治すよ」


 平然と言ってのける俺に唖然とするレナ。


「どうやって?」

「実はな、あの化け物。人間の情報を大量に保有していたんだ。その情報を使えば遺伝子疾患も治せるよ。俺の鑑定能力に追加された書き換えを使ってね」


 首を傾げるレナだったが、まぁいい。理屈はどうあれ直せる確信はあるんだ。だから彼女に言った。


「弟さんの所に案内してくれ。大丈夫。治せるよ」


 こうして俺は彼女の弟が療養しているという領地へ向かうのだった。



 彼女が案内しくれたのは城だった。領主が住まう城。ちなみに侯爵領。


「レナ?」


 今度は俺が唖然とする番だ。彼女が笑う。


「黙っててゴメンね。でも仮にも侯爵家の娘が冒険者の真似事なんてしてたら駄目でしょ?」


 そう言って首を傾げる彼女に俺は苦笑い。


「それはそうだけど……」


 つまり弟とは、この領地の次期領主。俺はその時期領主の治療を行ったのだ。


「レノル?」

「ん?」

「貴方のことは悪いようにはしないから。大丈夫。ここからは任せて!」


 こうして俺は改めて名誉を手に入れた。


 その後?


 うん。なんかね。侯爵家当主様から歓迎されて婿に迎え入れられたよ。結婚相手はもちろんレナだ。というわけで富も名声も手に入れたんだ。


 元親友?


 いちおうポーション作成と広めた功績があるから、貴族籍こそ剥奪されなかったが、信用ならないヤツとして有名人になっているよ。元妻と一緒にな。


 歴史書にもしっかり載ったそうだ。劇にもなったらしい。


 後世語り継がれるんだろうな。俺の名前と一緒にさ。


 クズの代名詞として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親友に全てを奪われたので復讐のために願いが叶うという天空の塔に登ろうと思います。 新川キナ @arakawa-kina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ