不幸なRPG?

無頼 チャイ

テストプレイ

「ゲームを作った?」


「おうよ。だからさ、俺のゲームのテストプレイしてくんない?」


 おうと応じた。

 休日になり、オレは渋谷しぶやとパソコン越しに顔合わせした。


「インストールしたか? したなら始めるぞ」


「今出来た。……お! 凄いな」


 気分の上がるBGMに壮大なイラスト、半透明のボックスの中に箇条書きで、始める、が浮かんでいた。


「ラッキーRPG? もしかしてラッキーだけで魔王倒すとかか? さてはバカゲーか」


「うん? ちゃんとタイトル見たか?」


 カーソルはすでに始めるを押していて、物語は強制的に始まった。


『勇者よ! 魔王を倒すのじゃ!各国にかけられたアンラッキー7つを全て解くにはそれしかない! それには、この国で唯一元からアンラッキーな勇者、お主にしか任せられないんだ!』


「なんだこの変な運命の託し方は!?」


「やっぱりちゃんと見てないな。タイトルは「アンラッキーRPG」だ。好評ならシリーズ化したいな〜」


「シリーズ通して勇者アンラッキーにする気か。てかオープニングそうそう地味に王様からディスられてないか?」


「普通なら抜ける剣を唯一抜けなかった勇者だからな」


「そこからすでに不幸が始まってるのかよ……」




■□■□■


「で、具体的な流れはなに?」


「基本的に経験値を稼いで魔王を討伐することだな。そうすれば、ハッピーエンド」


「なるほど。じゃあ早速モンスター倒して経験値稼ぎだな」


 二頭身の勇者を動かしフィールドに出る。グラフィックはどこか馴染みのある野原だった。

 ランダムエンカウント、適当に歩けば敵が出てくるらしく、ぐるぐると回っていると音が一瞬止まり、画面が切り替わった。


「お、ザコ戦が始まったな。スライムか」


「あ、ここはちょっと難しいかもしれないから説明するよ」


「いいって、やってれば分かるだろう。まずは攻撃だ!」


 分身である勇者が動き剣を振る。ダメージを受けたモンスターの頭上に数値が浮かんだ。ダメージを与えられたらしい。


「まずまずかな」


『なぜ私を攻撃するんです? 暴行罪と銃刀法違反で訴えますよ?』


「……は?」


 何だ? スライムが話しかけてきてる?


「おい渋谷、これ何だよ」


「最初のアンラッキー、その1。ひ○ゆきに影響されたザコ敵に議論戦を仕掛けられる」


 何だそれ。とか言えぬ間にテキストが追加されていく。


『そもそも私殴られたりされるようなことしてませんよね? 魔王様の配下だから殴ったとか言うんでしょうけど、関西人なら全員面白いこというみたいな変な偏見で襲いかかってません?。あ、それとも経験値が欲しいんですか? 経験値のために私を倒して強くなろうって? だとしてもよくモンスターを見てからにしてほしいですね。それともスライム全般に悪行を働いたデータでもあるんですか?』


「めちゃくちゃうぜぇ!!」


「落ち着け、こういう時は議論コマンドを使うんだ!」


 議論? 探してみると道具の下にあり、クリックするとテキストが増えた。頷く、反論する。黙る、証拠を提示する。

 何だこれ?


「いいか、相手の言葉を上手く引き出して、矛盾点を見つけたら突きつけてやれ」


「謎解きゲームに変わっちゃったよ……」



□■□■□


「やっと街に着いた」


「そしたら武器屋に行こう」


 渋谷のアドバイスに従い武器屋に行く。店に入ると、腕っぷしの良さそうなおっちゃんが、『いらっしゃい』と迎えてくれた。


「さて、何買おうかな」


 武器屋のおっちゃんに話しかけるとアイテム欄が出た。

しかし、欄の中は空白。


「……?」


「えっと、兄ちゃん、あんたは……?」


 質問された。


「アンラッキーその2、ショップ店員が記憶喪失になる、だ」


「いやいらねーよこんな仕様、話しが進まないだろ!」


「普通はな。こういう時こそ経験値だ」


「は? 何言ってるんだ」


 渋谷を無視して再度話しかけると、何故か溜まった経験値が急に引かれた。


「そうか、勇者やってるのか。それなら良い武器とか欲しいよな……、そうか、俺は、俺は武器屋をやってるのは、このためなのかも知れない。この情熱、なんで忘れてたんだろうな。ありがとな、兄ちゃん」


 おっちゃんが何かアイテムを持ってきた。ボロい剣、らしい。店にそれよりも強そうな武器があるのに、なぜ。


「鉄の打ち方とかまだ忘れててこんなんしか出来なかったけど、使ってほしい」


 剣をゲットした……。


「宿の場合、お店の人と仲良くなるにつれ回復量増えるよ」


「全回復しないのかよ!?」



 ■□■□■



「ここまで長かったな……」


 魔王が目の前にいる。長い旅の中、ザコ戦で議論を重ね、店員をそっと支え続け、ダンジョンのボスに面接とダンジョンの感想を求められる。そんな悪戦苦闘が続いた末、ようやく辿り着いた。


「ここまでありがとうな」


「へっ、何言ってるんだよ渋谷。アンラッキー5、昼夜がリアルタイムに反映されるで、盗賊のアジトに入るのに21:45の時だけ見張りいないの時に言ったろ。何が何でもクリアしてやるって!」


「1ヶ月もテストプレイしてくれてるからありがたいよ。けどさ、実は……」


「魔王がめちゃくちゃ強いとか言うんだろ。アンラッキーその3、勇者のステータス全部7の時、これで勝てるのかよって思ったけど、最初のボス戦からずっとボス戦なしで、大富豪とかダンジョンのアンケート調査の時に、あ、このゲーム強さ関係無いんだな、って悟ったから、多分この魔王も、最近娘と距離感じるとか、そういう難題に寄り添っていけば世界が救われるんだろ。大丈夫だ任せろ。急な大喜利や動体視力を使ったクイズも答えてきたんだ。必ずクリアしてやるって」



 そうして俺の分身が、一歩、また一歩と魔王に近付いた。クリックすると、魔王のテキストが浮かび上がった。

 何でも来やがれ!


『ここまでのテストプレイお疲れ様! 完成したら戦おう!』


「え……、え?」


 漠然とした。何の冗談だ? あ、いやドッキリだ。きっとそう、まさか魔王がドッキリとか驚きだな。それともリアクションを求められていて、それに応えられないと即ゲームオーバーか? 悪戯好きな魔王もいたもんだな。アハハ。


「あれ? なんかタイトル画面に戻されてる」


「まだアンラッキーその7が出てないだろ? 魔王戦でそれを活用したいんだけど、まだ思いつかなくてさ、あ、でも完成したら即教えるからさ! 楽しみにしててくれよ。ここまでありがとう。即完成させるから切るわ。本当に参考になった。早く完成させる!」


「アハハ……」


 アンラッキーなら出来てたよ。

 アンラッキー7、エンディングが用意されてない。

 クソゲーだった。

 けど、早くプレイしたいな。

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