好きって、そういうこと
若奈ちさ
第1話
同じ形をした建売住宅がずらっと並ぶ一角でわたしは育った。
三軒隣に住む
ママ同士も仲がよくて、お互いの家を行き来しているうち、運命的な出会いだとかなんだとか感じる前に一番の仲良しになっていた。
どちらの家であろうとも、勝手知ったる我が家のように冷蔵庫のジュースを飲み、眠くなったらソファーで寝て、水遊びをしたら一緒にお風呂に入る。
だけど、小学校に入学すると、お互いの親がまるで申し合わせていたように、わたしと虎太郎を一緒のお風呂に入れることはなくなった。
中学校も高校も、大学だって同じ学校に通っているのに、目と鼻の先にいる虎太郎がなぜだか遠い。
わたしはそれに気づくのが少し遅かったらしい。
幼なじみであることに気を許しすぎて、高校生のとき、とんでもないことをたずねてしまった。
「ねぇ、どうして好きな人とエッチしたくなるんだろう?」
それはたしかにあんまりにも唐突な質問だった。
ただ、単純に疑問だったのだ。どうしてみんな好きな人となら、カラダの関係になってもいいと思えるのか。
虎太郎はいっしゅん戸惑ってはいたが、やっぱりわたしはそのへんにいるクラスメイトの女子とは違うのか、男友達と話しているみたいに答えた。
「毎日その人のことを考えているからでしょう? いっぱいいっぱい考えて、考えることがなくなって、気づいたらその人のことを裸にする空想をしてるんだ」
「嘘でしょう」
「本当に」
「わたしも?」
「なんでだよ。なんで美月の想像なんてするんだよ」
冷たく言い放っていたけれど、虎太郎は恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
わたしはよかったのに。想像に飽き足らなくなったとしたら。虎太郎の前なら裸になってもよかった。その先のことだって。
あの話しを聞いてから、わたしはたまに想像の中で虎太郎を脱がせにかかる。
シャツのボタンをひとつひとつ外していって、ズボンのファスナーを下ろす。
さすがに子供のころだって虎太郎の服を脱がせてやったことはない。
想像の中で、虎太郎がどんな顔してわたしを見下ろしているかはイメージがつかないが、裸体となった虎太郎はちょっとデリカシーに欠けるくらい反応している。
いや、むしろ、それくらいに欲してくれていたらうれしい。
だからそんな想像をしてしまうのだ。
オトナになったと自覚しているわたしたちが戯れるのは、きっと間違ったことなのだろう。
あのころのわたしたちとは違う。
虎太郎と無邪気に抱き合えたらいいのに。
それを言葉にすれば微妙なニュアンスがどこかへ消えて、軽々しいような、正確性に欠けるような、意味をはき違えたセックスになってしまいそうだった。
虎太郎のことは好き。でも、恋とはちょっと違う。
これからもこんな距離感でいることにはちがいがないくて、虎太郎とは恋とセックスだけはしないのだろうと思う。
虎太郎が連れてくる新しい彼女を、部屋の窓から見下ろしながら、幼馴染みというマウントが顔をのぞかせる。
そして相手も何食わぬ顔で彼女というマウントを取ってくるのだ。
わたしは、その先を経験したんだよって。
好きって、そういうこと 若奈ちさ @wakana_s
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