ドレッシング・イズ・ライフ
ヲトブソラ
ドレッシング・イズ・ライフ
ドレッシング・イズ・ライフ
「あの二人さ、趣味も考え方も一緒なんだってさ」
友人の新しい恋人の話をサラダに手をつけようとしている夫にしていた。わたしと夫は周りが全員反対する程に結婚が早く、そして、わたし達の周りにはまだ既婚者が少ない。だから、恋をして、きらきらと輝きながら話をする友人に、少しだけ嫉妬をしたりなんかもする。
「考え方まで同じならつまらないんじゃないの?」
わたしの嫉妬に対して相槌を打って欲しかっただけなのに、お皿に入っていたプチトマトをフォークで突き刺した“共感してくれない夫”が言った。
「つまらないって……同じように共感するのに?」
「うん、同じように共感するのに」
そう得意気に言い、大きな口にプチトマトが吸い込まれていく。趣味が同じで、考え方も同じ、同じ事で共感し、共有が出来るという事のどこがつまらないのか。夫が意地悪な笑顔をすると、テーブルのドレッシングの瓶を手に取り振った。
「よくある例え。ぼくと君はドレッシングだ」
「はあ……?」
ドレッシングは味の付いた水分と風味と口当たりを良くする油が入っている。勿論、水と油は混ざらない。しかし、よく瓶を振り、かき混ぜてサラダに和えると素材の良さを引き立てる。
「もし、同じ味の水分と水分だったら、こんなにサラダは美味しくならない」
「まあ………例えは分かるけど……」
サラダに同じ味をふたつ和えても同じ味。反発し合う水分と油が混在するから引き立つ。つまり、同じものでも違う見方が出来た方が、二人でいる楽しみが増えるのだと笑った。確かにわたし達は、映画や小説を観終わり、読み終わった後に感想や意見を互いに話す。これが同じ考え方だったら会話は続かず、深夜まで白熱する程に話さないだろう。そして、みんなと同じでは無かったから、一般的に少し違うタイミングで人生を共にする事にもなったとも言える。
ただ、わたしの友人に対する嫉妬というものの根っこは………、
「今朝、行ってきますの“ちゅー”をしなかった」
ほら、そうやって、すぐに共感が出来ないから鼻で笑うでしょ。わたしにとっては大切な事なんだよ。
「はいはい、分かった。食事が終わったらキスをしてあげよう、お姫様」
「当たり前だ。朝の分と寂しかった気持ちの分も補填しろ、王子様」
水と油が混ざってしまう位に、かき混ぜて。
おわり
ドレッシング・イズ・ライフ ヲトブソラ @sola_wotv
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます