背番号7はアンラッキー7

桁くとん

背番号7はアンラッキー7





 長野県立上田錬成館高校のサッカー部員たちは、背番号7番を「ラッキー7セブン」と呼んでいた。


 毎年、背番号7番を着けた選手は活躍するからだ。


 昨年の選手権で7番を着けたのは皆川慎太郎先輩だった。

 皆川先輩は、選手権長野県大会決勝でボランチながらミドルシュートで2得点を挙げて大会MVPになり、全国大会ではベスト16に進出する原動力になった。

 卒業後の進路はJ2やJ3のチームからの誘いもあったらしいが、運動生理学を学ぶために大学サッカーの強豪早稲田大学に進むことになっている。


 そんな皆川先輩は僕たち後輩の憧れの的だった。

 選手権では皆川先輩の後ろのセンターバックを務めていた僕だったが、新チームでは皆川先輩と同じ7番を着けて、先輩と同じくボランチをするのが目標だ。


 今年は選手権でベスト16に進出したこともあって、恒例の新年の初蹴りは小正月前に開催された。

 初蹴りは現役もOBも大勢集まる。

 その初蹴りで学校に集まった時、皆川先輩に僕は声を掛けられた。


「滋野、お前背番号7番着けたいみたいだが、本当か」


「はい、皆川先輩。僕も先輩のように背番号7を着けて国立までチームを導きたいです。先輩を間近に見て憧れてましたから。

 そんな並大抵の努力じゃ叶わないってのはわかってます」


「……そうか。なら努力は当然だが、学生の本分を忘れるなよ」


「どういう意味ですか?」


「そのまんまの意味だよ。……まあお前なら大丈夫だと思うけど」


 何だろう、何か皆川先輩の歯切れが悪い気がする。


「先輩、何かあるんですか」


「そうだな」


 先輩は辺りを見回した。


「まあ、この距離なら大丈夫だろう。いいか滋野、一度しか言わんから良く聞いてくれ」


 何だろう、凄く勿体ぶった言い回しだ。だけど皆川先輩の言う事だ、間違いはないはずだ。


「ここ、上田錬成館の背番号7番だが、みんなはラッキー7セブンって言ってるよな」


「はい、着けた人が皆活躍する背番号だって」


「活躍した選手って、誰がいる?」


「えーと、覚えてるのはまず皆川先輩で、皆川先輩が2年間着けてましたから、その前の藤田先輩とか室賀先輩……」


「他には?」


「えーっと、僕が小学校の頃の保科さんとか」


「他には?」


「……すみません、わかりません」


「まあ別に歴代の7番を全員覚えなくちゃいかん、って訳じゃないからいいんだが。それで、お前が覚えてる7番の先輩方は皆確かに活躍した。ま、おこがましいが俺も一応な」


「はい」


「でもお前が覚えていない7番を着けてた先輩方もいる訳だ。でも覚えて貰えるほど活躍できていない。それは何でだと思う?」


「それは僕が覚えていないだけで」


「いや、確かにそうなんだが、お前が覚えていない他の7番を着けた先輩方はな、実は皆大会直前に様々な不幸な理由で出場出来なかったんだ。それで活躍できていないので滋野は覚えていないんだ」


 突然皆川先輩が訳わからんことを言う。

 怪我ならまだしも不幸な事故って。


「はっきり言う。滋野、実はここ上田錬成館高校サッカー部の背番号7は、本当はアンラッキー7セブンなんだ」


 アンラッキー7セブンって。


「……先輩、何を言ってるんですか」


「待て滋野、信じられない気持ちはわかる。俺も藤田先輩から聞いた時は半信半疑だった。だが、背負ってみれば嫌でも理解できるんだ。7番はな、サッカーだけでなく勉学もしっかり取り組まないといけないってことが。遊びに心移りすると特大の不幸が襲って来るんだ」


「先輩、冗談はやめて下さい」


「冗談なんかじゃない。藤田先輩の前は坂田先輩って人が背番号7を着けていた。坂田先輩は、彼女以外の子と付き合っているのが大会直前に彼女にバレて、彼女との仲が険悪になってしまい、とてもサッカーに集中できる状態ではなくなり、退部してしまった」


「またまた~」


「そして室賀先輩の前の村松先輩は、大会直前に授業をサボって友人宅で賭け麻雀をしていたのが学校にバレてしまい停学になり、大会を棒に振った」


「それはダメですね」


「そして保科先輩の前の竹内先輩は、中退した生徒とツルんで夜中バイクで二ケツして突っとってしまい、全治3カ月の大怪我と停学になった」


「確かに学生の本分から離れすぎてますね」


「そして俺だ」


「いや、先輩は大会を棒に振ってないじゃないですか」


「結果的にはな。だが危ないところだったんだ。選手権の前に、俺が手を怪我したのは覚えてるだろう」


「はい、確か変な形で手を突いてひねったって言ってませんでしたか」


「表向きそう言ってただけだ。本当はスマホの課金ゲームの『うまむすっ!』にハマりかけていたんだ。俺は課金してスーパーレアのおぐりんをガチャろうとしたんだ。そしたらスマホの充電池が爆発した」


「え~」


「不幸中の幸いだったのは、まだ自分の小遣いの範囲でガチャしたことだ。これが親のクレカに手を出していたら、どうなっていたか分からない。

 これでわかったろう、背番号7はサッカーと勉学から他に目移りした途端に不幸を招く“アンラッキー7セブン”だってことが」


「……はい、わかりました」


「ならいいか、もう俺は同じことを言わんからな。肝に銘じて励めよ、滋野」


 そう言うと皆川先輩は僕から離れて他の人のところに話に行った。



 ふう。

 なるほど、確かに上田錬成館高校の背番号7番はアンラッキー7セブンかも知れない。

 僕は他のOBたちのところに行った皆川先輩の様子を目で追いながら思った。


 皆川先輩は、顧問の上原先生や、他に僕が知らないOBの人と笑顔で話しながら軽く小突かれたりしている。


 つまりは、上田錬成館高校の背番号7番は、皆にラッキー7セブンだと思われるだけの活躍をしないといけないし、さっきの皆川先輩のように、次の代の7番候補者に文武両道を託すために、あんな無理のある話をして戒めないといけないらしい。


 この、活躍した上で無理やりのこじつけ戒め話をするのが本当に罰ゲームで、まさにアンラッキー7セブンとしか言えないな。


 皆川先輩、お疲れさまでした。

 先輩が名前を出したOBの方に真偽を確認しようなんて思いませんから安心してください。

 逆に、県代表くらいにはなっておかないと、僕も何言われるか分からないんだな。

 それもアンラッキー7セブンだ。




 そして1年後。

 僕たちの代は皆川先輩の代のベスト16には辿りつけなかったが、県代表の座は譲らず、全国大会では初戦は突破し2回戦で敗れた。

 僕は7番を着けてボランチではなく何故かセカンドトップで起用されて県大会は得点王、全国大会1回戦でも得点し勝利に貢献した。


 卒業後は関東の大学には進まず、関西サッカーリーグの強豪、関西学院大学に進学することになっている。


 今年も小正月に設定された初蹴り。

 OBとなった皆川先輩も来ている。

 皆川先輩は僕を見つけると、声はかけずにニヤニヤしている。


 あーあ、仕方がない。

 アンラッキー7セブンのお勤めを果たそう。



「なあ海野、ちょっといいか? お前来年背番号7番着けたいみたいだが、本当か?」








                           終

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