【完結】 ミスター・アンラッキー7

ファンタスティック小説家

ミスター・アンラッキー7

 思えば7月7日に生まれたことこそが、不運な人生の始まりだったのかもしれない。

 

 およそ人生のありとあらゆる面で能力がないのに、こと運に限っては絶望的。そのうえで7にまつわる物事は絶望を通り越して、確定的に、奇跡的に、神がかり的に、間違いなく不幸アンラッキーなことが起こるんだ。


 おかげで朝はいつも7時の電車で高校に通学しないといけない。7歳の頃には車に轢かれて死にかけた。去年7月には過去最大回数77回も職質された。

 

 ほかにも不運、不平、不満、数えたらキリがないだろう。


 とにかく俺は7に呪われているのだ。

 今年はそんな俺の17歳の年、令和7年の7月7日たる今日はいわば呪われた日だ。やばすぎて7週間前から震えが止まらない。

 

「今日はやばいぞ……気を引き締めておかないと」


 時計を確認する。時刻は6時55分。おかしいな。いつもは6時40分に家を出るのに。


 展開はやかったな。

 早朝から俺の遅刻は確定してしまった。

 30秒で支度して家を飛びだす。


 マンションを出ると警察官とぱったり目があった。


「ちょっと君、目が死んだ魚みたいだね。そんな慌ててどこ行くんだい?」

「見てわかりません? 学校ですよ」

「怪しい……。お時間は取らせません、すこしお付き合いいただけますか?」

「無理ですッ」


 流石は呪いの日。

 朝から凄まじい。


 警察官を振り切り、全力で駆ける先、信号がちょうど赤になる。でしょうねの極み。


「目が死んでるあなた、猫派かしら?」


 黒髪の女子高生がたずねてくる。

 いきなりなんだ。

 知らない人に話しかけるなんて。

 というか美人だ。緊張する。かあいい。


「あっと、まぁ、猫は好きかも」


 平静を装って返答する。


「私があの猫を助けるから、もしもの時はあの子のお世話を頼んだわ」


 赤信号、女子高生が飛び出した。

 視線先にはふてぶてしいドラ猫。

 そこへ突っ込んでくるトラック。

 

 もしかして、彼女は猫を助けるために命を使い、あとの猫の世話を俺に託したというのか?


 おいおい、冗談だろ。

 なんたって猫のためにそんな。

 

 俺が焦燥感と葛藤と議論を済ませて、彼女の背中を追うのには少し時間を要した。だから、俺が彼女を止めることはできない。


 その間もトラックはスピードを落とさず突っ込んでくる。


「こら! 2人とも戻りなさい! 危ないぞッ!」


 背後の警官は叫ぶ。

 危ないことなんてわかってる。

 でも、目の前にいるんだよ。俺みたいなダメ人間では考えの及ばないような子が。猫のために命を賭けれる勇敢な少女が。


「捕まえた! 死んだ目の君!」


 女子高生はドラ猫を拾いあげるなり、俺のほうへパスしようとしてくる。投げる気か。


 俺は立ち止まり、時計を眺めながら、手をバッと突き出し「やめろッ!」と大声で叫んだ。

 

 少女はビクッとして動きを固める。


 時間がゆっくりに感じられる。

 走馬灯というのだろうか。

 俺と少女だけがそのスローな時間を共有していた。


 日付は7月7日。時刻は午前7時。

 

 不幸の運命がやってくる。

 この状況。俺にはわかる。

 もはや未来すら読める。

 

 あの女の子に気がついた運転手が急にハンドルを切って、方向を変えた先には、棒立ちしてる俺がいるんだ。それで轢かれる。


 知ってるよ。

 信じてるぜ。

 俺を呪う7の魔力をよ。


 俺は出来るだけ立派に死のうと不的な笑みを浮かべ、女子高生へ一言告げる。


「俺を信じろ」

 

 すぐのち、俺はしっかり跳ね飛ばされた。

 我が不運を舐めてもらっては困る。


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 目が覚めた時、白い天井を見上げていた。

 手足の感覚はあった。首も動く。

 思ったより軽傷だったかな。そんなことを思いながら視線をスライドさせると、息を呑む美少女がいた、黒髪の、あの子だ。


「ピンと来たわ。あなたこそ、アンラッキー7なのね」

「どうしてそのことを」


 開口一番、不幸体質を言い当てられた。

 アンラッキー7か。語呂は良くないな。


「実は私はラッキー7なのよ。だから、7月7日午前7時に車に轢かれるなんて不幸起こるはずがなかった」

「えぇ……それじゃあ、俺の犠牲は無駄に……」

「あなたが不運な分だけ、私が幸運なの。ふたりで一緒にいればたぶん、幸運と不幸がいい感じに打ち消し合うはず」


 少女は頬を染め、ちいさく咳払いする。


「私、他人に貸しをつくるのは主義じゃないの。だから……不幸が嫌なら私といっしょにいなさい。私が溢れる幸福を分けてあげる」


 アンラッキー7な不運の日。

 思ったよりかは悪くないかもしれない。

 彼女を見えると、必然とそう思えた。














『ミスター・アンラッキー7』 完結













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