6. ただいま、おじいちゃん

 向かい風に翼を滑らせ、ブッコローはぐんぐん進みました。あっという間に森の入り口です。懐かしい木々の香りを奥へ奥へと進むと、遠くに灯りが見えました。

 森一番の古くて大きなクスノキが、葉っぱのガーランドや松ぼっくりのキャンドルで飾られ、愉しげな音楽と笑い声が聞こえてきます。

 故里ふるさとへ、ブッコローは帰ってきたのでした。

 大きなクスノキの真ん中あたりに、たくさんの家族と贈り物に囲まれたグランコローおじいさまの姿がありました。おじいさまも、帰ったばかりのブッコローをすぐに見つけました。

 みんなが見守る中、ブッコローはおじいさまの前にそっと舞い降り、胸の羽毛からプレゼントを取り出しました。

「ただいま、おじいちゃん。お誕生日おめでとう」

「おかえり、ブッコロー。待っていたよ」

 おじいさまは嬉しそうに微笑み、それから受け取った素敵なリボンの小箱を、みんなに開いて見せました。

 キャンドルの光をキラキラと反射して輝く、美しいガラスのペンです。みんなはそれをみて、目を丸くして驚いたり、うっとりとため息をついたりしました。

「こんな美しいものは、森にはないよ。お前さんの虹色の羽角うかくも伊達じゃない。ブッコロー、ありがとうよ」

 おじいさんは、ガラスペンを大切そうに胸元にしまいました。

 そこでブッコローは、たまりかねたように言いました。

「実は僕、謝らなくちゃいけないんだ。昨日なくしちゃったんだよ。おじいちゃんのくれた『知の象徴』を!」

 おじいさまは、驚いたふうもなく、静かに頷きました。

「いま抱えとるのは、自分で書いたものだね。どれ、少しわしに見せておくれ」

 どうやらおじいさまは、ちゃんと見抜いていたようです。本のことも、きっと自分の孫が、それを正直に打ち明けてくれるだろうということも。

 新しい『知の象徴』を、おじいさまはときどき目を細めたり、クスクス笑い声を漏らしたりしながら、ゆっくりゆっくり読みました。そしてとうとう読み終えると、満足そうに言いました。

「わしの書いた本より、ずっと上等だとも。来年も、その次も、続きを読ませてくれんかね。長生きするには、こういう楽しみがなくちゃならん」

 その言葉を聞いたみんなは嬉しくなり、わっと祝福の羽根吹雪を降らせました。

「グランコロー、おめでとう!」

 誰かの声をきっかけに、村は再び音楽と笑い声に包まれました。

 ブッコローは、おじいさまにこっそり尋ねました。

「あの本、やっぱりおじいちゃんが書いたんだね。一体、どんなことが書いてあったの?」

「おや、お前さん、中身を見なんだか。そりゃそうとも。見ておったら決して手放しはせんかったじゃろう」

 そう言われると、ブッコローはますます好奇心をくすぐられます。

「教えてよ。あれには何が書いてあったの?」

 年季の入った翼を持ち上げ、おじいさまはそっと耳打ちしました。

「あれは長年かけて編み出した知恵の結晶。——すなわち、競馬の必勝法じゃよ」

 ブッコローは、驚きのあまりひっくり返って、真っ逆さまに地面に落っこちてしまいました。

 そしてやっとのことで『知の象徴』を開くと、最後にこう書き足したのでした。


 ——世の中には、知らないままの方が良いこともある。




      おしまい。

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ブッコローと知の象徴 新星エビマヨネーズ @shinsei_ebimayo

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