運命の相手は占い師?

蓮水千夜

運命の相手は占い師?

 ――ついてない。


 ここ最近、なんとなくずっとついてない気がする。


 ――ちょっと、一つ一つ整理してみよう。


 その一、 仲が良いと思っていた後輩に影でめっちゃ悪口を言われていた。

 そのニ、そのことばかりを考えて、悩んだ果てに段差から足を踏み外し、足を捻挫した。

 その三、勇気を出して声をかけた相手と途中まですごくいい感じだったのに、相手の仕事が忙しくて疎遠になり、そのまま連絡がつかなくなった。

 その四、悔しいから今度こそ恋人を作ろうと思って、思い切って大人数の街コンに参加したけれど、結局誰にも選ばれなかった。

 その五、大人数がダメならと少人数の街コンに参加したけれど、やっぱり誰にも選ばれない。

 その六、アプリならいけるのではとマッチングアプリを始めるけれど、そもそもいいねを送っても連絡が来ない。

 その七、あんまりにも男の人に相手にされないから、街で男の人に声をかけられてつい、話をしていたらいつの間にかよくわからないものを買わされそうになっていた。


 ――わぁ、思いつくだけで七つも出てきた。これじゃあラッキーセブンじゃなくて、アンラッキーセブンですわ。


「…………」


 ――そうだ。占いに行こう!


 気づけばみどりは、イケメンがいると噂の占いのお店まで駆け出していた。


 衝動的にお店に行ったので、よく考えたら他の人を占い中かもと思ったのだが、幸い今はちょうど、お客さんがいないタイミングのようだった。


「こんにちは〜。こちらへどうぞ」


 ふと、閉ざされたカーテンがかかった部屋のようなところからかわいらしい声が聞こえてきた。    

 恐る恐る入ると少し小さなは部屋の中に椅子とテーブル、そして向かいに噂の占い師が座っていた。


「どうぞ、こちらに……」

「えっ!? めっちゃイケメン!」


 占い師の方が言い終わる前につい、口が出てしまっていた。


「……ふぇっ?」


 その瞬間、占い師の顔が真っ赤に染まる。


 ――えっ、なにそれ。めっちゃかわいい。


 小動物のようにプルプル震えている。これは、あれだ。かわいいイケメンだ。


「こ、こほん。は、初めまして。私は翡翠と申します。いろんな角度から占わせていただきますので、今日はよろしくお願いします」


 緊張しているのか、若干震えたような声で挨拶される。ひょっとして、新人とかなのだろうか? 評判がいいのは顔がいいからなのか?


 いろんな疑問が頭に浮かんだが、翡翠の顔を間近に見てるだけでどうでもよくなってきた。はずれてもいい。だってこんなイケメンと話せているのだ。実質タダみたいなもんだ。


「今回はどのようなことを占いますか?」

「なんか最近めっちゃ、ついてない気がして……」

「あー、確かにこないだまで運気が低迷していたようですね」


 ――やっぱりか。


「でも、でもっ! 今はもう運気が上がってきていますよ! 運命の相手にも出会えるみたいです!」

「まじですか! 運命の相手! そこんとこ詳しく!!」

「は、はいっ!」


 半ば戸惑いながらも、一生懸命に運命の相手とやらを調べてくれている。かわいい。


「はれっ?」

 だが、なぜか急に顔を真っ赤にして翡翠は固まってしまう。


「……どうしたんです?」

 聞いてみても、さらに顔を赤くするばかり。


「あの、あのっ! ちょ、ちょっと待ってくださいね! もう一度!」


 そう言ってまた、うんうん唸り出すのだが、

「あれぇっ!?」

 また、戸惑いながら真っ赤な顔になる。そして、意味ありげにこちらを見つめた。


「その、み、みどりさんの運命のお相手なんですが……」

「はいっ!」


「私みたいです……」

「ん?」


「私がみどりさんの運命のお相手みたいです!!」


「翡翠さんが!?」


「ご、ごめんなさい! でも何回やってもそう出ちゃって……」

「よろこんで」


「ふぇっ?」

「よろこんで、運命の相手務めさせていただきます」

 言いながら、翡翠の手をしっかり握る。


「でも、でも、私みどりさんのことなにも知らないですし!」

 そう言う翡翠にみどりは自身の誕生日やら血液型やら伝えたことが書いてある紙を指差す。


「あれぇっ!? 結構個人情報知ってる!!」


「というわけで、わたしと付き合ってください」

「は、はい……。よろしくお願いします……?」


 ――いや、オッケーなんかーいっ!


 翡翠が本当によく当たる占い師で、この運命が本物だとわかるのは、あとちょっと先のことだ。


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