アンラッキースリーセブン

姫路 りしゅう

私は勝った


「みなさまに行っていただくゲームは……『アンラッキー7』!」


 正方形の机を囲むように四人の男女が座っている。その中の一人である大塚沙鳥おおつかさとりは、他の三人の顔を眺め、先ほど行った自己紹介を思い返していた。

 右(麻雀で言うところの下家だ)から順番に赤坂さん、青田さん、緑谷さん。

 三人ともこういう類の会に慣れていないのか、少しおどおどした感じであたりを見渡している。

 まあ、二回戦ならこんなものか、と沙鳥は思った。


 ここは、大金を賭けた非合法のゲーム会場。

 参加者の多くは半ば強制的に参加させられているため、こういった噛み応えのない場になることが多い。


 ゲームマスターがルールを説明する。

「まず、みなさまはラッキー7です」

「は?」

「このゲームの目的は、ラッキー777スリーセブンを作ること。要するに、今からみなさまには三人グループを作ってもらいます」

「あの……この場には四人いますけど」

 赤坂さんが不安げな顔で手をあげた。

「そう! そこがこのゲームの肝です。先ほど私は、『みなさまは、ラッキー7です』といいましたが、実はこの中に一人だけ、『アンラッキー7』が混ざっています。外見はラッキー7と同じ。しかし、ゲーム終了時にその人間を含んだ777を作ってしまった場合、アンラッキー777となってしまいます」

 ふむ、と沙鳥は頷いた。

 この中にひとりだけ混じっているアンラッキー7を探して、その人以外でグループを組めばいいということか。

「ラッキー7の勝利条件は、ラッキー777を作ること。アンラッキー7の勝利条件は、アンラッキー777を作ることです。制限時間は十分。三人組の作り方は多数決となります」

 ゲームマスターは「それではお手元のデバイスをご覧ください」と続けた。


 電子デバイスを見ると、『ラッキー7』と書いてある。

 どうやら沙鳥はラッキー7側だったということだ。


「それでは、ゲームスタートです!」


 タイマーが動き出した。


 それと同時に、沙鳥は心の中で「クソゲーね……」と呟く。

 ノーヒントでアンラッキー7を特定するの、不可能じゃない!

 これが運ゲーなんだとしたら、さすがにアンラッキー7側が有利過ぎない?

 ……ああ、でも運営としては数をガンガン減らしていきたいだろうから、ひとりのほうが有利っていうのは間違っていないのか。

 そう思いながら沙鳥はデバイスをもう一度だけ見て、「ふむ」と頷いて手をあげた。



**


「みなさん、役職はなんでした?」

 そういうと三人はいぶかしげに首を傾げた。

「役職?」

 沙鳥はわざとゆっくり目に「私、『占術師』らしくて。誰かひとりがラッキーかアンラッキーか見れるらしくて」と言った。

「……役職? そんなのあるの? 俺の画面、『ラッキー7』としか表示されてなかったんだけど」

 青田さんが言う。

「あれ、じゃあ役職がついているの私だけなんですかね?」

 沙鳥はタブレットを操作しながら首を傾げた。

「みなさん気付いていると思うんですけど、これって、要するに『人狼ゲーム』じゃないですか」

 村人に擬態した人食い狼を当てるゲームである。


「まさか、ノーヒントで狼を当てろという理不尽な運ゲーとは思えませんし、私が『占術師』……人狼で言うところの占い師だった以上、もう一人くらい役職持ちがいるのかなと思ったんですが」


 沙鳥は人差し指を立ててくるくると回しながら言葉を続ける。


「そうだなあ、例えばこれが四人用人狼ゲーム、『ワンナイト人狼』を模しているのなら、相手と役職を秘密裏に入れ替える『怪盗』みたいな役職があるのかなって思ったんですけど……なくてもおかしくはないですけど……あっ!」


「みなさん、もしかして、気付いてないですか? いまたぶん『ラッキー7』って表示されていると思うんですけど、その画面から右にスワイプすると役職ページに行けますよ!」


 沙鳥がそういった瞬間、三人は慌てて自分のタブレットをもって、指で画面を擦った。


 少し間があって、緑谷さんが「……あ、えっと、私、『怪盗』でした。大塚さんの言った通り、人と役職を入れ替えられるらしいです。でもこれ、役職を入れ替えてアンラッキー7と入れ替わったら、私がアンラッキー7になるってことですよね……?」と不安そうに言う。

 沙鳥は笑いながら「そうですね。他ふたりは役職持ちじゃないみたい、つまり片方が役職ナシ、片方がアンラッキー7の可能性が高いから、そのまま何もしないほうがいいですよ」と言った。

 役職持ちじゃないと言われた赤坂さんと青田さんは驚いたような顔をしてお互いを見る。

 自分じゃないほうがアンラッキー7だと疑っているのだろう。


「じゃあ大塚さんが占いの能力をどちらかに使えば――」

 口を開いた緑谷さんに向かって沙鳥は、「ごめんなさい」と頭を下げて、手をあげた。


「さっきの話、全部嘘です。役職なんてないです。タブレットをスワイプしても何も出てきません」


「…………………………………………は?」


「占術師なんて存在しません。私はただのラッキー7です。だから緑谷さんが『怪盗』だっていうのも、嘘ですよね」

「…………」

 自分が嵌められたことに気づいた緑谷さんは机をバン! と叩いた。


「ごめんなさい。でも、ノーヒントでアンラッキー7を炙り出すには、この方法が一番早いかなって」


**


「そんなわけで勝ったんだ」

 帰宅した沙鳥は恋人の太ももを枕にしながら顛末を話した。

「おつかれさま。でも、やっぱり正体隠匿系は嫌いだなぁ」

「正体隠匿系って、人狼みたいな?」

 恋人の鈴也は頷く。

「ゲームを作る上でとっつきやすくはあるんだけど、よっぽど革新的なアイデアがないと『村人や死人が暇になる、大多数が楽しめないゲーム』か『全員に役職があるせいでややこしすぎて誰も楽しめないゲーム』かの二択になりがちなんだよね」

「まあ、わからなくはないけど。でもおもしろいときも多いよ。いまから二人でやろ?」

「ふたりで人狼を!?」

「はいはーい、すずくんが狼でーす!」

「何を根拠に」

「だって男はみんな狼って」

「僕はちがいやい!」

「……本当に?」

「…………」





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