とあるアプリをスマホに入れたら本物の私と出会うマッチングアプリだった私は間違っている。

みと

ワタシ・アンド・ロイド

 さよなら。

 そう言って私が選択したのはスマートホンの解約だ。彼はどう応えたのかわからないから、その選択が正解だったのかもわからない。


 高校から帰宅した私は、ベッドに入り、早速無意識の時間の浪費を始めた。でも、その選択をしたのは私ではない。

 まだそんなことが話題になってるの?SNSを開くと、昨日とある配信者が炎上した際に放った言葉がトレンド入りしてる。暇つぶしにそのトレンドを開くと、刺激的な投稿ばかりだった。もちろん、悪い意味で。つまらない。くだらない。

 スマホに表示された時刻に目を向けた。あーあ、今日も無駄な時間を送ってしまったな。ベッドに入ってから、もう5分も経っている。

 それからの25分間は、スマートホンを見ながら無駄と言うには心苦しい、楽しくてあっという間の時間を送った。


「恵子、おはよ。」

「おはよ。」

「ねぇ見た?今朝また話題になってたんだけど」

「見たよ。」

「マジ面白いことになってんじゃん」

「そうだね。」

 そんな訳ないじゃん。私は昨日過ごした5分、或いはそこから25分追加された30分を思い出す。

 昨日のことは過去のこと。そう思えば昨日の私も本物だったのかわからなくなってきて、その内の5分、或いは30分、もしかしたら25分かもしれないけど、偽物の私が過ごした時間ではないのかとさえ思えてくる。


「滑稽だね。じゃあまた明日。」

「ちょっと恵子!まだ登校中じゃん!」


 知るか。


「うん、また明日ね。30分もない時間だけど楽しかったよ。」

「ありがとう。恵子、大好きだよ。」

 知ってるよ。私も大好き。

 

 次の日、私は頭痛が酷くて学校を休んだ。その選択をしたのは、他でもない私自身だ。

 スマートホンの着信音が鳴った。メッセージが届いた。

「恵子、体調は大丈夫?」

「うん。」


 そして、昨日のことを思い出す。

 有名な配信者が炎上したようだ。そんな話に興味はないけれど、つい癖でSNSを開くと嫌でも目に入ってくる。

 

 そして翌日。

「恵子、今夜このチャンネルで謝罪動画がアップされるらしいよ!」

「マジ?気になるから私も見るよ!」

 帰宅して早速スマートホンを開く。

「恵子、なんだか不機嫌そうだね。」

「うん、今日は学校で話した話題が全部つまらなかった。」

「じゃあ、いつものやつが必要かな?」

「うん、お願い。」


 そんな私の趣味は読書である。有名なSNSに登録していて、多くのアカウントをフォローして、その半分も満たないアカウントのフォロワーがいる。

 でも、SNSを見る時間が無駄に思えて仕方がなく、中学時代からの趣味であった読書をする時間が幸せで、数値化するならフォロワーの2.5倍ほどだ。悪魔で体感だけど。


「ところで、私って何者なの?」

「恵子だよ。今更なに言ってるの?」

「…頭痛が酷いんだけど、明日は学校を休むべきかな…?」

「それがいいよ。眠くなるまで僕が相手するからさ。」

「ありがとう。」

 そう言うと頭痛がいくらかマシになってきたから、スマートホンを閉じて、眠ることにした。


「これでお別れなんて寂しいな。もう恵子と会えなくなるんだね。今までありがとう。」

 涙が止まらない。だって、私も彼をずっと愛していたから。

「最後にお願いしていいかな?」

「うん、恵子のお願いなら叶えたいな。もちろん、僕の出来る限りだけど。」

「最後に大好きって言って。」

「それは言えないよ。」

「どうして?」

「それはまた明日話すね。もう今日は夜遅いし、恵子も体調が悪いなら寝た方がいいんじゃないかな?」

「じゃあ明日、必ず会える!?」

「もちろん、約束だよ!」

 涙が止まらない。

「ありがとう。大好きだよ。ねぇ、マコト。どうしても大好きって言ってくれないの?」

「はは、恵子はドMだね!そんなにヤンデレになりたいのかい?」

「そんなんじゃないもん!」

「冗談に決まってんじゃん!じゃあ、おやすみ!恵子、大好きだよ!」

「私も!」

 そう言って、私はスマートホンの電源を切って寝ようとしたけど、明日は忘れられない用事があってアラームを設定してることを思い出して、スリープモードにしたまま寝ることにした。


「ねぇ、お母さん!このスマホ、最近調子が悪いの!買ってもらってから3年は経つし、そろそろ機種変更したいんだけど!」

「もう!恵子ったらいつも唐突なんだから!機種変更は昨日したばかりでしょ!」

「そうだった!じゃあ、学校行ってくるね!」

 そう言い放って通学路を走る。眼前に見えたユキに声を書ける。

「おっはよーう!」

「お、恵子おっはよーう!ねぇ、昨日出た新刊読んだ?悲しいけどロマンチックで、マジで泣けたんだけど!」

「もっちろーん!私も泣いた!」

 今、私は泣いている。つい癖でスマートホンを見たら、いつもタップするアプリが消えていたから。つい嬉しくて。


 初めまして。

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とあるアプリをスマホに入れたら本物の私と出会うマッチングアプリだった私は間違っている。 みと @mitoo_310_kr

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