第5話 特殊部隊式ダンジョン攻略

 ダンジョンは最寄りの比企武蔵丘駅の地下に存在していた。俺とリリネはその入口の前に車を停めて、最後の装備チェックを行っていた。なおシャマシュは子供たちの面倒を見ているためお留守番である。


「ハルノリさん、なんでいつもの銃じゃなくてそんな小さい銃なんですか?あっちの方とかショットガンとかの方が威力があるんじゃないんですか?」


 ブレザーを脱いだ制服の上からタクティカルベストを着たリリネは俺のMP7A1を見て首を傾げていた。なお彼女が制服のままなのは、スキルによる服の強化があるかららしい。こんな世界でも自分はまだ学生だという証が欲しいとかなんとか。逆に俺はフロッグマンタイプの迷彩服に防弾プレート入りのガチガチのミリタリースタイルである。ちなみに俺は海の男なのでブーツではなくタクティカルシューズを好んで使う。ブーツは水に落ちたときにバタ足できないので、海軍系の組織は基本軍服でもブーツは好まれない。


「今回のダンジョンの通路はおそらくかなり狭い。たしかに大きな銃の方が威力はある。だけど取り回しが悪くなる。狭い場所だとそれは致命的になるんだ。今回はPDW一択だね」


 ダンジョンの大きさがよくわからない以上マガジンも余裕をもっていきたい。野戦ならHK416だけど、ダンジョンならMP7やMP5の方がたぶん装弾数と携行量を考えてもベストだと思う。


「PDW?それってライフルとは違うんですか?」


「ライフルとサブマシンガンの中間くらいだと思ってくれればいいよ」


「いろいろあるんですね。ふーん」


 リリネは銃の種類とかにはあんまり興味なさそう。逆に刀にはこだわりがあるようで、左腰には脇差と打ち刀、右腰には小太刀、背中には太刀をそれぞれホルスターで装着している。ガチガチの近接戦闘スタイルである。


「じゃあ突入するか!」


「はい!頑張りましょう!!」


「「えいえいおー!!」」


 俺たちはダンジョンの内部に突入した。






 ダンジョンの仲は近代的な駅の地下街のような構造になっていた。ライトがついていて明るい。だけど天井は低く、通路は狭くて圧迫感を感じる。


「PDWで正解だったな…おっとリリネちゃんストップ」


 俺は左手を上げて、リリネが歩くのを止めた。


「どうかしました?」


「十字路の左側にモンスターが二体いる。俺の風のレーダーが反応した」


 通路の先にスライムとゴブリンの反応を検知した。どうやら外にいる奴よりも強そうな感じ。


「どうします?わたしが始末しましょうか?」


「いや。俺に任せて。まあ見ててよ」


 俺は忍び足で壁沿いに十字路に近づき、曲がり角の向こう側を覗き込んで銃口を向けて二回トリガーを引いた。


『ぴぎゃ!』『ぐぅ!』


 小さなうめき声を上げてスライムは破裂し、ゴブリンは頭を撃ち抜かれて斃れた。


----------------


サイタマスライム、サイタマゴブリンを倒した。

SP10ポイントを獲得。

パーティースキルポイント10p獲得



---------------



「パーティースキルポイント?なんぞ?」


「それはあれです。パーティーで共用できるスキルポイントです。個々人のステータス強化に使ったりパーティー共通のスキルの底上げに使ったりできます!」


「ふーん。なるほどね。じゃあ試しに使ってみるか」


 俺たちは一応パーティーとして設定してある。


------------

【ハルノリ隊】

メンバー

弘原海令勅

三刀屋百合音


共通スキル

敵探索Lv1

アイテムボックスLv1

攻撃力アップLv1

コモンスペルLv1


-----------



「なんか色々書いてあんな。とりあえずコモンスペルのレベルでも上げてみるかね」


 俺はコモンスペルのLVにポイントを割り振ってみた。するとLvは2に上がった。サブウィンドウが現れて、ヒールが追加されていることが表示された。


「これでヒールが使えるってこと?ヒール!」


俺は自分自身にヒールを使ってみた。特に何も怒らなかったが、心なしか体がポカポカとしたような気がした。血行促進かな?


「ハルノリさん、ヒールはケガしてないときはマッサージ効果に変わるんですよ。戦闘終わった後に使うとすごく癒されますよ!」


「なんという行き届いたサービスなんだ」


 でもこうやって簡単に自分を強化できるようになるのはなんか楽しいね。でもだからこそシャマシュが嫌がったのもわかる。これは便利な力を与えて、人を飼い慣らすシステム監獄だ。俺たちはこれを何の見返りもなしに使っているけど。


「なあステータスシステムって、基本無料なんだよな?」


「そうですね。対価を要求されることはないですね。ネットの操作マニュアル動画でもそういうことは何も言ってませんでしたし」


「ステータスシステムは俺たちの情報を収集してるんじゃないのか?それを他所に高値で売りつけるとか?」


「うーん?でもこんな滅んだ世界で個人情報なんて価値あります?」


「そう言われればそうだよね。でも解せないな。この仕組みを造ったやつにとってただで公開するメリットはいったい何なんだろうな」


「困ってる人たちを助けたかったからとかですかね?」


「こんなシステムを作れる奴なら、そもそも自分の力で人助けできるんじゃないのか?やっぱりちぐはぐしてる。まあいいや。今は考えるのをやめておこう。先に行こう」


「了解!」


「リリネ、そういう時はフーヤーって言ってくれ。海軍式だ。さあ行くぞリリネ!」


「フーヤー!!」


 俺たちは先を急ぐ。








 ダンジョンの攻略は順調だった。罠は俺の過去の訓練で十分対処できるものだったし、リリネの近接戦闘技能は極めて高い。


「リリネは強いね。何か特殊な訓練でも受けてたの?」


「いいえ。でも剣道はやってましたよ。これでも全国で一番取ったんです!すごいでしょ!」


「すごいね。部活で活躍はかっこいいよ」


 でも剣道が強いだけで何とかなるのか?そういうレベルじゃない気がする。なにせリリネは圧倒的にステータスで劣るドラゴン相手に刀一本で耐え抜いていたような超絶技巧の持ち主だ。隠し事をしているわけではなく、本人も気づいていない異能でも持っているのではなかろうか?そうこうしているうちに俺たちは大きな扉の前に辿り着いた。どう見てもボス部屋にしか見えない。


 俺はドアノブを回す。だけど扉は開かなかった。


「鍵がかかってるな」


「こういう時って、多分ダンジョン内を探索すれば鍵が出てくるんじゃないですかね?ゲームだとそうですよ」


 リリネの言っていることはもっともだと思う。だけどそんなめんどくさいことはしたくない。俺は背中のリュックからショートバレルのショットガン、ブリーチャーを取り出して、蝶番に向けて引き金を引く。


「きゃ?!え?!いやいや!普通こういう時、ドアを撃ちますか?!ゲームならこういうのは破壊不可能オブジェクトですよ!!」


「これはゲームじゃない。現実の延長だよ。ほら見ろ。蝶番壊れたぜ」


 蝶番は俺の風の力のショットガンで破壊されていた。ドアはこれで開く。俺はMP7をリリネに渡して、アイテムボックスから愛用のHK416を取り出す。


「あのわたしどうすればいいんですか?」


「ドアを開けて、そしたら俺が銃口を向けている方向に向かって、その銃をぶっ放してくれ。いいね?3,2,1!」

 

 リリネは俺のカウントダウンに合わせてドアを開く。俺は開けたドアから銃口を入れて、部屋の真ん中にいる敵らしき存在に向けてフルオートで撃ちまくる。リリネも俺に続いてMP7をフルオートで撃ちまくった。


『びぎゃぎゃやっやややあっががあががえあ!!!』


 なかからモンスターの悲鳴が聞こえてくる。弾切れになるまで売った後、すぐに俺はホームセンターの材料で作った爆弾を部屋の中に何個も投げ入れる。そしてドアを閉じてその場からリリネを連れて少し離れる。


「画ぁあああああああ!!ぎゅくぅううぅううう…ぅ」


-----------------------

サイタマゴブリンロードを倒した!

SP1000を取得した。

サイタマ胴インゴットを手に入れた。


ハルノリ隊は比企武蔵丘駅ダンジョン攻略に成功した。

パーティーリーダー弘原海令勅は比企武蔵丘エリアの【主権】を獲得した。

----------------------


「え?!今のでボス死んじゃったんですか?!というかなんですか今の戦闘方!!?」


「特殊部隊のやり方だね。ドア開けてとりあえずぶっ放して、すぐに爆弾を放り込む。大抵のやつはこれでいちころよ」


「特殊部隊って…もっとこう正々堂々戦うんじゃないんですか?」


「特殊部隊はむしろ暗殺とか標的の拉致とかそういう後ろ暗い作戦をやることの方が多いからね。むしろ侍より忍者に近いよ。割とマジで」


「すごいんですけど…なんだろう…わたしの考えてたダンジョン攻略じゃない気が…」


「勝ゃいいんですよ。くくく」


 俺たちはボスのいた部屋に入る。すると部屋の中心にコンソールらしきものが立体映像で現れていた。


「これダンジョンの制御ツールなんじゃないですか?」


「みたいだね。項目がかなり多いな。おっ!これが都市管理システムか!」


-----------------------


対モンスター結界Lv1 SP1000

電気インフラ SP10000000000

上水道    SP10000000000

下水道    SP10000000000

...etcetc

----------------------



「とりあえずこの対スモンスター結界があれか居住エリアの確保みたいだな。ポイントも足りるしやってみよう」



-------------

比企武蔵丘の駅周辺に対モンスター結界を展開しました。

駅周囲半径1kmからすべてのモンスターの撤退を確認。

------------


「すごい!すごいです!やったぁ!きゃああ!!」


 リリネは俺の首に抱き着いてきた。


「これでもうあそこに子供たちを閉じ込めておかなくてよくなりました!他にも生き残った人たちを連れてこれます!街が蘇った!私たちの街が蘇った!あはははははは!」


 心の底からリリネは笑っていたと思う。そしてしばらくしてはっとした顔になって、恥ずかしそうに俺のことを見詰めた。


「…あの…あはは…心の底から笑っちゃいました…」


「そうだね。笑わせちゃったね」


「…約束…しちゃいましたもんね。仕方ないですよね?」


 俺は何も言わずにリリネの肩を抱き寄せた。


「そうだね。でもまずは子供たちを迎えに行こう」


「うふふ。そうですね。新しい場所に。私たちの国に子供たちを…」


 こうして俺たちはダンジョンを攻略して、領地を手に入れることに成功したのだった。



面白かったら星★やフォローをお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エアガン無双~元自衛隊特殊部隊出身の俺がゾンビとダンジョンにあふれた世界で女神と結婚して風の力で建国します!~ 園業公起 @muteki_succubus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ