第4話 戦争の始まり
倒した男たちとリリネのお友達の深沢美登里をロープで縛りあげて拘束した。着ている制服からするとみんなリリネと同じ高校の生徒のようだ。
「美登里が私を襲うだなんて…どうして…」
「ふん!いい子ちゃんぶらないでよ!」
目を覚ました深沢はニヤリと笑ってリリネを挑発する。だけどリリネは本気で深沢を憐れむような顔をしていた。
「わたしは知らないうちに美登里になにかしちゃったのかな?それだったらわたしは」
「煩いのよ!そういうとこよ!本気で善人で!本気で他人を心配してるところ!そういうのが本当に気に入らないのよ!あんたなんて大嫌い!!」
「美登里…」
さっきから感情論しか言ってない。襲撃の目的は何一つも話していないのだ。ここからは俺が仕切った方が良さそうだな。
「ちょっとおじさんの質問に答えてくれない?」
「は?あんた何よ?リリネのナイト気取り?男ってみんなバカよね。やらせてもくれないリリネなんかのために尽くしちゃってさ!あんたもどうせそうなんでしょ!」
「うるせぇんだよガタガタとよう!リリネちゃぁん!昨日君がこのぼくちゃんにしてくれたこと美登里ちゃんに説明して差し上げて!!」
「え?いやでもあれは…その……うう」
リリネは両手で真っ赤な顔を抑えて俯く。それを見て深沢は愕然としていた。
「え?うそ?もしかしてそういう関係なの…?あのリリネが…?」
イイ感じに勘違いされてるみたいだ。
「まあおじさんが只者ではないことがわかっていただけたと思うんだよね。で、なんで襲撃した?個人的遺恨はあるみたいだけど、お前らどうせ誰かに命令されたんじゃないの?」
深沢は図星を突かれて悔しそうに唇を嚙み締めた。
「
「迎え?へぇその割には殺意は高かったけどな」
「同行者がいたら男だったら殺せって言われてたから!」
なんとなく事情がみえてきたように思えた。
「リリネちゃん?小鳥遊ってやつは知り合い?」
「その、
リリネは俺に向かって申し訳なさそうな顔を向けている。
「幼馴染?それって彼氏の雅な言い方?」
「違います!本当にただの幼馴染です!わたしの義両親と向こうの両親の仲が良くて、家も隣同士で、きょうだいみたいなともだち、ただそれだけですよ」
「それは普通じゃないと思うよ」
ニートの端くれとしては当然幼馴染ものには萌えます。幼馴染しか勝たん!
「ねぇ本当なの美登里?響士がもしわたしに男の同行者がいたら殺せって言ったって。そんな酷いことを…」
「本当よ。ふん。いいわね…愛されてて…本当に羨ましい…わたしなんて…彼に抱かれてるのに…なんで抱かれてもいないあんたが…!」
「え?美登里、響士と付き合ってたの?知らなかった。なんで言ってくれなかったの?」
リリネは驚いていた。だけどそこにはとくに恋愛がらみな感情はなさそうに見える。小鳥遊とかいうやつまじで幼馴染どまりらしい。
「付き合えもしないのよ!処女だって捧げた!彼が望むことならどんなプレイだってした!お金が欲しいっていうから、汚くてキモいおっさんたちとだってヤった!なのに!なのにぃ!なんであんたは綺麗なまま愛されるのよ…ううっ…」
深沢はぽろぽろと涙を流している。とても気の毒だ。リリネも憐れむようなまなざしを向けている。そしてしゃがんだリリネは深沢の頭を抱き寄せた。
「ごめん。わたしはあなたの苦しみを何も知らなかった。ごめんね。ほんとうにごめんね」
リリネは深沢の頭を優しく撫でている。本当に優しい子なんだな。こういう子を助けられて良かったとあらためて思う。だけど状況が良くない。
「小鳥遊ってやつがリリネに執着しているのはわかったけど、そいつはただの学生じゃないのか?なんで肉体関係のあるおまえだけじゃなくて、そこの男たちも動員できる?」
深沢単独でやってきたら、あまり異常性は感じなかっただろう。男たちに戦闘の指令を出せる権力の方が気になる。
「当たり前じゃん小鳥遊くんはあたしたちのリーダーだもの!学校のみんなをすごい力で守って、地域の生き残った人たちも救ってる!あたしたちのすごいリーダーなんだ!」
「ほう。それはそれは…これは厄介なことになったなぁ」
アポカリプスなうとは言え、人間とは元来秩序を求める生き物だ。生き延びた人間たちがコミュニティを造るのは当然のことのように思える。だけど今回の襲撃を思えば、小鳥遊とかいうやつはヤバい。この襲撃はコミュニティのリーダーとしてではなく、小鳥遊個人の欲求故にだろう。コミュニティの戦力は普段はモンスターとゾンビ相手の防衛に咲かれているはずだ。だけど個人的目的のために割り振るれるだけの兵力的余裕があるのだ。小鳥遊勢力はかなりデカい軍隊とみなさないとヤバい。
「とりあえずお前たちは捕虜として連行する。安心しろハーグ条約くらいの人権は保障してやる。俺は紳士的に戦争をやれる男だからな」
縛られた小鳥遊たちをトラックの荷台に乗せる。そして俺は運転席にリリネは助手席に座ってトラックを走らせる。
「さっきのことすみません」
「気にするな。というか謝らないで。君のせいじゃない。小鳥遊とやらがちょっと変なだけだ」
「いいえ、わたしは彼の傍にずっといたのに全然気づかなかった。美登里をあんなに傷つけるような人だったなんて!わたしはそんな人ときょうだいみたいなものだって思ってたんです。自分が恥ずかしいです」
リリネは俯いてボソッと呟いた。
「わたしこれからどうすればいいんでしょう?」
「………それは…」
「わたしだって多少はわかります。響士の勢力はすごく大きいんですよね。いくらハルノリさんが強くても、勝つのは難しい。それならわたしを響士に売ってください。それで逃げて…子供たちは私が響士に媚びて必ず守って見せますから。ハルノリさんは逃げてください」
リリネはぽろぽろと涙を流し始める。
「でも今日だけ、今日だけでいいです。わたしに優しくしてください。抱いてください。残りの人生は全部響士に奪われるなら、その間ずっとあなたを忘れられないくらいにぎゅって抱いて…」
「やだね。てか俺言ったよね。君を抱くなら、笑顔にしてからってね。約束は守るよ必ずね」
俺は左手をリリネの頬に伸ばして頬を撫でる。
「俺は君を誰かに、他の男に渡したりしない。いつか君を俺のものにしてやるよ」
リリネは俺の左手を両手で握って泣きながら頷く。まだ笑顔にはさせられないけど、この約束だけは必ず守ろうと誓った。誰に?女神様かな。
神社に帰ってきて、とりあえず倉に捕虜を放り込んだ後、俺たちはシャマシュに状況を説明した。
「というわけで大変困ってるんですよ。シャマシュ。何か知恵を貸してくれ」
「そう。なかなか愉快な事態になっているのね。いいわ。これもきっと運命の采配というやつなのでしょう。あなたを王にするために私は地上に降臨した。そして妻になった。いいでしょう。内助の功をはっきしてあげるわ。あなたたち」
シャマシュは俺たちをオレンジ色の瞳で見つめながら言った。
「ダンジョンを攻略しなさい」
「「…ダンジョン?」」
ゾンビ、ゴブリン、スライム、ドラゴン。そしてとうとうダンジョンなんて言葉が出てきた。この世界は心底ファンタジーに堕落したらしい。
「そう。ダンジョン。この近くに一つダンジョンがあるわ。そこを攻略しなさい」
「そうするとなんかいいことあるの?」
「ダンジョンを攻略すると、その周囲の土地において、あなたの【主権】が確立されるわ」
「すまん。意味がわからないんだけど?具体的にはどういうことなの?」
「そうね。わかりやすく言うと、都市国家を作れるのよ。攻略したダンジョンの周囲の土地をあなたが排他的に決定敵にできるようになる。そしてダンジョンを高純度の魔力炉として使えるようになるから、電気、水道などのインフラなどもスキルを駆使して建設することができるようになるわ。ゾンビなんかも浄化されて現れなくなるし、再び人が安心して住めるようになるわ」
「へぇそりゃすごい」
ダンジョンを攻略すると陣地を獲得できる。陣地を獲得したらまだ生き残ってる人たちを呼び寄せて街を育てる。そこから兵力を抽出できれば小鳥遊軍と渡り合えるようになる。ってことだ。
「ダンジョンを攻略するのが王としての第一歩ということになるわね。ハルノリ。あなたの王としての器を私に見せて頂戴」
「わかった。ダンジョンを攻略する。そして作ろう俺の俺による俺のための国を…!」
こうして小鳥遊軍と俺との抗争の幕は落とされたのである。
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