全部盛り

龍軒治政墫

全部盛り

 とある夜のことだった。

 近所の本屋に、一台の車が突っ込んだ。そりゃあもう、物凄い勢いで。


 運転手は娘のためにぬいぐるみを買い、帰る途中にハンドル操作を誤って事故を起こしたと、誰かが話していた。しかし、事故が起きてまだ運転手も救助されていないのに、どこからそんな情報が出てきたのだ……?


 突っ込まれた本屋は、見るも無惨にぐちゃぐちゃとなっている。

 貴重な本屋が……。

 面白そうな本をテキトーに探すのには丁度いい場所で、よく来ていた。閉店したら困る。


 それにしても運が良かった。

 今日、あまりにも眠れなくて悩んでいた。そこで、夜も遅い時間に外へ出て、ぶらついていたのだが、もの凄い音がして振り返ってみたら、この惨状だった。もう少し遅かったら、この事故に巻き込まれていたかもしれない。

 時間は深夜23時。


 そう、これは深夜の散歩で起きた出来事である!


 眠れないから散歩で気分転換してからゆっくり寝ようと思ったのに、これじゃあ逆に目が冴えてしまった!

 このあと、寝られるか?


 現場はまだ騒がしい。筋肉自慢のレスキュー隊による救助活動が行われている最中だ。


 そして、その様子を書店の隣近所の店員や客が野次馬で来て眺めている。

 みんな好きだなぁ。こんな夜中に。

 書店の隣にはうどん屋、パチンコ屋、コンビニが並んでいて、店名はそれぞれ、


 英理庵えいりあん

 ラッキー

 セブンイレブン


 となっていた。


 救助作業は難航している。

「おい! 息はあるぞ!」

「ここで死なせていいわけあるか!」

 ようやく要救助者を助け出せるところまで来たのか、レスキュー隊がさらに気合いを入れる。


 そして運転手は救助され、救急車で運ばれた。


 その後も、現場では検証が続く。

 ああ、よかった、助かって。ホッとして、ぐっすり眠れそうだ。


 帰ろうとすると、ぬいぐるみが落ちていた。

(運転手のか?)

 拾うと、ぬいぐるみがギロリと睨んだ。


「次はお前だよ。一生眠らせてやる」

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