うぐいすの鳴く朝は
八万
第1話 なんて日だっ!!!
ホー……ホケキョ……ケキョケキョ……
朝の陽射しが真っ白なカーテン越しに俺の顔を照らす。
「くわっ! 眩しいじゃねぇか!」
俺は布団を勢いよくめくった。
昨日寝るのが遅かったせいもあり、昼過ぎまで寝るつもりだったのに!
無理矢理オカンに起こされた気分だ。
「あー……ケキョケキョうるせーな……ったく、今何時なんだ?」
俺は目ヤニでぼけた目を擦りながらスマホを確認すると丁度朝『7:00』になったところだった。
「ち、四時間しか寝てねーじゃねーか……くそが!」
再び目を閉じるも陽射しと春の陽気のせいか全く眠れない!
俺は寝るのを諦めのそのそと起き上がった。
腹が減ったので何かないかと冷蔵庫を開けるも、腹の足しになるものは何も無い……くそが! 何か買っとけや昨日の俺! 昨日の俺を殴り付けたくなった。
「しゃーねぇ……朝飯は牛丼屋の朝定食にすっか……」
顔をジャバジャバ洗って寝癖を水で適当に直してから表に出た。マスクをしてるから多少の無精ひげは問題無いだろう。
エレベーターのボタンを押すと丁度下がってきていて、扉が開く。
上階に住む奥さんだ。マスク越しにも美人と分かる。軽く会釈して奥に乗り込んだ。
たまに今日の様な日曜日にエレベーターでバッティングするが、顔だけでなく尻も俺好みなので今日も拝めてラッキーデイだ!
俺は駅方面にぶらぶらと歩いていると、さっきの奥さんがママチャリで俺の横を通り過ぎていき、フワッといい香りが鼻をくすぐる。そんな事より、やっぱいい尻だな……。俺は離れていく尻を眺め続けていた。
歩いていると道端にフキノトウがいくつか顔を出してるではないか。何か縁起がいいぞ?
「確か
俺はゴルフボールのようにも見えるフキノトウを四つ
「……ぺっぺっ!!! にがっっ!!! くそっ!」
やっぱり生じゃ食えんわな……口の中が何か臭いしゴワゴワするし、最悪の気分だ。
残りのやつはパーカーのポッケに入れておこう。火を通せば食えるだろ。
予定通り牛丼屋で朝定食を済ませると、予定も無いので駅前をぶらぶらしていた。
「おっ!? 今日はラッキー7デイか!」
パチンコ屋の前を通りがかると『本日ラッキー7デイ』というのぼりが立っていたのだ。スマホを確認すると確かに7日だった。
「……よしっ! 暇だし運試しすっか!! 今日は何故か出るような気がするぜ!」
俺は久しぶりのパチンコに鼻息荒く乗り込んでいった。
目当てのパチンコ台はみんな大好き『北○の拳』だ。今日はいつもより出る日らしく席が殆ど埋まっていた。
が、丁度席が空いたので素早く席に座った。ラッキー!
台番号を見ると何と、777番台ではないか! おいおいラッキー7デイにこんな美味しい台捨てて帰るなんて正気か!?
俺は運命を感じ、嬉々としてハンドルを握った。
「よしっ! ここでPUSHだっ!!! …………くそがっっっ!!!」
「兄ちゃん、調子悪いみたいやなー、しっしっし」
もう日が暮れる時間だというのに単発ばかりで一向に出る気配が無い。どこが本日ラッキー7デイやねん!
もはや俺にはアンラッキー7デイやないか!
そんなイライラマックスの時に声を掛けてきたのが、隣で連チャンをかましていたおっちゃんだ。
「まぁ、これでも飲んで気分転換するこった、しっしっし」
「はぁ……ありがとうございます」
おっちゃんは俺に同情してか、缶コーヒーを差し入れてくれた。変な笑い方をするのは歯が殆ど無いからのようだ。笑った顔は意外とかわいくて憎めない……かな。
「兄ちゃん、今日は出ない日やで、周りを見てみな、しっしっし」
「あれ、朝はあんなにいたのに……」
「まぁ、そういうこったな、しっし」
「くそ……騙された。はぁ……今朝ウグイスが鳴いてたから何かいい事でも起こるかと思ったんだけどな」
「兄ちゃん、知らんのか? ウグイスの『ホーホケキョ』てのはな、
「えっ!? 縁起がいいとか幸運を呼ぶとかは??」
「ないない、しっしっし、兄ちゃん、乙女やな、しっしっし……しっしっし」
「…………」
おっちゃんは最後にそれだけ云うと席を立ち、俺の肩をポンポンと叩いてそそくさとカウンターに向かっていった。
結局全ての玉をのまれ財布もスッカラカンになった俺はとぼとぼと帰宅した。
俺は今、黒く変色したフキノトウを3コ茹でている。お気に入りのパーカーのポッケは染みになっていた。
コトコトコト
「……………………くそがっっっ!!!」
完
うぐいすの鳴く朝は 八万 @itou999
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