アンラッキー7

石衣くもん

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 僕は「7」という数字に呪われている。

 そうとしか思えないほど、僕の不幸にはいつも「7」が付き纏うのだ。


 例えば、僕の家族は父、母、兄、妹と祖父、祖母の七人で暮らしているのだが、七人目の僕が生まれてすぐ、長らく暮らしていた一軒家がシロアリにやられて引っ越さざるを得なくなった。

 また、兄も通っていた小学校である東山第七小学校は、僕が入学して1年後、7歳の時に人数が少ないため隣の東山第六小学校と統合されることになったのだが、第六は結構な悪ガキが多い学校だったせいで、そこから僕は小学校卒業までパシられることになった。


「でもさあ、それって『7』が悪いんじゃなくて、君の運がただひたすらに悪いだけな気がするけどねえ」

「……僕の運が悪いのは間違いないですけど、そこに共通しているのが『7』だって言ってるんです」


 ほぉーん、と興味なさそうな声で相槌を打つ、この田尻先輩はサークルの先輩で、今年、七回生になる変わり者である。

 この先輩に何故か目をつけられて、あの変わり者に構われるのだから、あいつも変わり者に違いないと、同回生から敬遠されているのも7の呪いの一つなんですが。

 

「それで? そんな不確かというかこじつけというか、くだらないことのために、君は青春を棒に振ろうとしているのか、もったいなあい」

「……言わなきゃよかった」


 こんな先輩しか相談する相手がいない自分が情けないが、僕は田尻先輩に恋の悩みを聞いてもらおうとしていたのだ。


「まあまあ、それで? その恋しちゃった『七ちゃん』との運命的な出会いの詳細を聞こうじゃないか。でないと君が何に躊躇っているのかもわからないよ」


 全然真剣に聞いてはくれていないが、まあ、こんな人でも僕よりは経験豊富なわけだし、と僕は恋の悩みを先輩に聞いてもらうことにした。




 彼女と出会ったのは家の近くのコンビニだった。このコンビニは、昔パシられていた時に、言われた商品がなくて焦りながら探していたら、挙動が不審過ぎると万引きを疑われ、身の潔白を証明はできたものの


「それならそんな変な動きをするんじゃない!」


と、店長に逆切れされた苦い思い出のあるコンビニだ。お察しの通り、7と11が付くコンビニである。


 嫌な思いはしたものの、家から一番近いため、あの店長がいない時を見計らって今も使っていた。

 そして、先日、店長がいないことを外から伺って入店したところ、二つあるレジが一つ埋まり、お客さんが並んだところで、奥から店長が出てきた。


 僕は挙動不審にならないように気をつけながら、店から避難しようとした。

 すると、後ろから、あの店長のイライラした声が聞こえてきたのだ。


「いや、だから読み取れないものは使えないんでね!」

「でも、このQR決済使えるって書いてあるじゃないですか!」

「読み取れないものは使えないでしょ! 他の決済かお金で払ってください!」


 恐る恐る様子を伺うと、レジに並んでいた女の人が、スマホで決済をしようとしたけどうまくいかず、揉めているようだった。


「おかしいですよね! 他のお店では今日も使えてたのに、やり方間違ってるんじゃないんですか!」

「そんなこと私に言われても困りますよ! 他の支払い方法ができないなら諦めてもらうしかないね!」


 女の人が負けずに強く言い返したことで、二人はヒートアップしていた。

 そして、女の人が悔しいのか怒り過ぎて感情が昂ったのか、泣き出してしまった。


 流石の店長も面食らったようで


「な、泣かれても困るよ……」


と、言ったものの、女の人は泣くばかりで「もう買わない」とも言わず、その場を離れようともしない。

 まだ若そうで、自分と同い年か少し下くらいの女の人が可哀想に思えてきて、つい


「これで足りますか?」


と千円札を差し出してしまったのだ。


 バツが悪そうな、一方で安堵したような表情で店長は僕の千円で決済し、僕は知らない彼女の手を引いてコンビニの外へ連れて行った。


「あの、すみません。私、おじさんに大きい声出されると父のこと思い出しちゃって、取り乱しちゃって……今はお金ないんですけど、返したいので連絡先を教えてもらえませんか?」


 改めて彼女の顔を見たら、めちゃめちゃタイプだった。

 助けたのは、そういう下心とかなく、あの店長にキレられた仲間意識からの同情のようなものだったのだが、結果としてめちゃめちゃタイプの女の子だった。


「あ、はい」

「よかった~! あ、じゃあこのQR読み取ってください!」


 交換した連絡先のアイコンは目の前の、どタイプの彼女。そしてその下に表示されている名前が「NaNa」だったのである。


「え、ななさん……っていうんですか?」

「はいっ! 数字の七って書いて『なな』です! また連絡しますね!!」


 そう言って彼女は去っていき、その日の晩に「ぜひお礼をかねてご飯に行きたい」と連絡がきて、約束を取り付けた。

 それが今日なのである。


「……言いたいことはたくさんあるんだけどさあ、それで、君は何に悩んでいるわけ?」


 先輩が頭を抱えながらそう言ってきたので、僕は答えた。


「いや、今日会った時に『付き合ってほしい』って言うべきか否か……やっぱり七ちゃんていう名前が引っかかってるんですよね」

「君が引っかかるべきところはそこじゃないと思うけどなあ。というか、君は『7』に呪われてるとかじゃなくて、自ら不幸に突っ走っていってる気もするよね。とにかくまず千円は返してもらっておいでよ」


 それから、と先輩は言葉を続けた。


「免許でも学生証でもなんでもいいから、生年月日を教えてもらってから『付き合ってほしい』って言いなよ。君の理論でいうなら彼女が17歳の未成年で、痛い目あうかもしれないから」

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