幸運で不運なわたし

びゃくし

わたし


 リモコンを手に取りボタンを押す。


 カチと小さなクリック音。

 待機状態だったテレビが点灯してザーザーと映像が流れる。


 わたしはそれをただただ無感動に眺めていた。


 わたしの今年のラッキーナンバーは7。


 新年、普段は行かない廃れた神社のおみくじで引き当てたそれは、わたしの心の拠り所だった。


 でも違った。


 幸運なんかじゃない。


 今年事故に2回あった。

 1回でも珍しいだろうに2回も自動車との接触事故。


 道を歩くわたしを掠めるように車が電柱へとぶつかっていった。

 持っていたバックこそ中身が道路にぶち撒けられたものの、幸運にも身体には怪我はなかった。

 

 真上から物が落ちてくることが4回あった。


 植木鉢が1回、冷たいホースの水が2回、工事現場の看板が1回。

 その時も幸運にも怪我はない。

 ただわたしは頭上を見上げて移動するようになった。

 青空はいいけど曇り空だと憂鬱になった。


 忘れ物が15回あった。


 自分でも何故忘れたのかわからない。

 筆箱、体操服、眼鏡、カバン、家の鍵、重要なプリント、宿題まであげるのもきりがない。

 ただ幸運にもどれも忘れても挽回できるものばかりだった。

 連続で忘れることはなかった。


 本当にラッキーナンバーなの?

 不幸続きで目も当てられない。


 そんな憂鬱な日々。


 あの日のことは忘れない。


 7月7 日、19時00分。


 メールが届く。


 『アンラッキー7占い』。

 なんでもないショートメール。

 また何処かの知らない企業の送った迷惑メール。


 でもそれが切っ掛け。


 コンビニにいたわたしは強盗に巻き込まれた。


 怒声と悲鳴が聞こえる中、わたしは必死に棚に隠れた。


 強盗は灰色の目出し帽に、右手に包丁。

 パッと見、若い男の人。


 金を出せと脅す声に店員さんは怯えながらもレジを操作する。

 震える手で7枚のお札を出した。


 っ!?


 不運なことにわたしは棚の商品を落とした。

 強盗がこちらを見る。

 目出し帽越しに目が血走っているのが見えた。


 痛っ!


 思わず尻もちをついた。

 お尻が床に強かに打ち付けられる。


 たった7分間の出来事。

 強盗は床に散らばったお金を拾い去っていった。


 それがつい一週間前のこと。


 幸運だった。

 特に怪我もなく、失ったものもない。


 でも……不幸なこともある。


 わたしは魅入られていた……恐怖に。


 ザーザーとテレビの音が聞こえる。

 わたしは包丁の先端を自分に向けた。


 フゥー、フゥー。

 荒く息づかいが変わる。


 わたしは確かにおみくじで記されたように幸運だった。

 でも不運でもある。

 あの日以前と以後で変わったわたし。


 ――――本当にわたしは幸運だった?

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幸運で不運なわたし びゃくし @Byakushi

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