願いを叶える宝珠

願いを叶える宝珠

　ああ、いらっしゃい。

　うちの店を見付けるとは、あんた一端（いっぱし）の冒険者だねえ。

　ひゃっひゃっひゃ。見ればわかるさ。そんな景気の良さそうな装備してりゃあね。

　そんな腕利きなあんたにお勧めしたい商品が入荷したんだけどね。ちょいと見てみないかい？

　そら、これさ。あんたも冒険者なら聞いた事があるだろう？

　七つ集めると願いが叶う宝珠の伝説を。

　これがその内の一つってえ訳さ。

　いやいや、誓って偽物じゃあないよ。あたしの誇りにかけて、うちの店に半端な品物何ぞ置きやしない。

　ほれ見な、知識神殿の鑑定書付きだ。文句あるかい？

　何？　本物ならなんであたしが集めないのかって？

　あのねえ。あたしゃ、しがない商人だよ。そんな危険な事に手を出せる訳がないだろう。

　大体もう、伝説のお宝探して西東って歳でもないしね。

　こういうものはあんたら冒険者に押し付けて、小金に変えるのが一番さ。

　分ったかい？　さ、納得いったなら買っておくれ。今ならちょっと割引してあげようじゃないか。

　よしよし、それでこそさ。毎度あり。

　また来ておくれよ。面白い品を揃えて待っとるからね。

　では良い冒険を。

　…………

　くっふっふ。それなりに自信だけある中堅冒険者はいいカモだねえ。

　あの宝珠は本物だけど、持っているだけで不幸になるってえ謂（いわ）れを知らないと見える。

　何でも願いが叶う代物だ。誰かに奪われやしないかと疑心暗鬼になって、いずれ周囲と不和を起こす。奪い合いに殺し合いも起こるだろう。

　それこそ、考え得る限りの人災が降り注ぐはずさ。

　それでもきっと、最悪な事態にならない限り手放さない。いやさ、手放せない。

　まさに負の連鎖を呼び込む呪いの宝珠と化しちまってるのにねえ。

　ま、売った後の事まではあたしの知ったこっちゃないがね。ひっひっひ。

　おっと、歳を取ると独り言が増えて嫌だねえ。次のお客が来てるじゃないか。

　いらっしゃい、お客人。「魔女の道具屋」へようこそ。