アンラッキー7、出動!
平 遊
~アンラッキーなのは、キミだけじゃない~
腰につけた呼出ベルが、ブルブルと震える。
(またっ?!)
ため息をつくと、桃香は席を立ち、上司である課長ににそっとメモを見せた。
「課長、こちらいかがいたしましょうか」
『呼び出しが掛かったので、離席します』
メモにちらりと目を向けると、課長は小さく頷く。
「悪いが、至急先方に出向いて対応をしてきてくれないか」
「承知いたしました」
桃香の手の中のメモの文字は、既に消えている。それでも、用心深くシュレッダーにかけてから、桃香はオフィスを飛び出した。
「おみくじはいつも【凶】!アンラッキーナンバー1!」
「トイレットペーパーはいつも残りわずかで交換担当!アンラッキーナンバー2!」
「ホームに着けばいつも電車は発車直後!アンラッキーナンバー3!」
「イベントの日は必ず雨!アンラッキーナンバー4!」
「お目当てのグッズはいつも直前で売り切れ!アンラッキーナンバー5!」
「親に捨てられ施設育ち!アンラッキーナンバー6!」
いつものように、メンバーがお決まりの言葉を口にしながらポーズを決めていく。
トリを務めるのは、いつも紅一点の桃香だ。
「惚れた男には必ず既に女がいる!アンラッキーナンバー7!」
そして最後に全員で、決まり文句と決めポーズ。
「「「「「「「アンラッキー7、参上!」」」」」」」
今まさに、屋上の手すりを乗り越えて己の命を手放そうとしていた少年が、唖然とした顔でポカンと口を開け、桃香達を眺めている。
「少年。アンラッキーなのは君だけじゃない。つまり、君はひとりじゃないんだ」
「…はぁ」
リーダーであるアンラッキーナンバー1が、キラリと白い歯を見せながら少年の肩を優しく抱く。
目元にはマスクをしているため分からないが、きっと力強い笑顔を浮かべているのだろうなと、桃香は思った。
毒気を抜かれたような顔の少年は、もはや命を手放す心配はなさそうだ。
その後、駆けつけた最寄りの警察署の少年課の刑事に少年を引き渡し、桃香達の任務は終了。
「皆、今回もお疲れ様!それでは、解散!」
リーダーの言葉に、アンラッキー7は、それぞれの生活へと戻っていく。
桃香も、コスチュームから職場の制服に着替えると、急いで職場へと戻った。
「課長、ただいま戻りました」
「お疲れ様。先方の反応は?」
「問題ありません」
「ありがとう」
報告を受けた課長は、ホッとしたような笑みを浮かべた。
今、ごく一部の間で有名且つひっぱりダコの、『アンラッキー7』。
彼らは国家の密命を受けて動く存在。正体を知る者も、ごく限られた者だけだ。
自死を止めるべく活動を行っている彼ら『アンラッキー7』も実は、元自殺未遂者で、『アンラッキー7』によって救われた命を持つ者たち。
当然のことながら、桃香もそうだった。
今は改善されているが、桃香の職場は以前はブラックもいいところで、過重労働の末に精神を病んでしまった桃香は、ビルの屋上から飛び降りる寸前だった。
その時現れたのが、先代の『アンラッキー7』達だ。
あまりに現実離れした彼等の登場に、桃香は飛び降りることも忘れ、ポカンとして彼らを眺めたことを覚えている。
あの時紅一点だった『アンラッキーナンバー7』の決まり文句は、なんだったろうか…
(そうそう『ダメンズホイホイ歴17年!アンラッキーナンバー7!』だったなぁ…)
『飛び降りなんて、ノンノン。そんなのいつでもできるわ。ねぇ、あなた私の後継者になってみない?』
妙に色気のある声の『アンラッキーナンバー7』にそう囁かれ、思わずコクリと頷いてしまってから早2年。
今ではすっかり『アンラッキーナンバー7』の一員となった桃香は、何人もの命を救う存在となっている。
(さて、と。今日中にこの仕事終わらせないと…)
そう思ったとたん。
(ウソでしょ?!また?!)
腰につけた呼出ベルが、ブルブルと震え出し、桃香は大きなため息をついた。
すると、察したのだろうか、課長が席を立ち、桃香のそばまでやってきた。
「すまないね、もうひとつ頼まれてくれないか。今日は直帰で構わないよ。残りは僕がやっておく」
「…ありがとうございます!」
実はこの課長こそ、先代『アンラッキー7』のリーダー、『アンラッキーナンバー1』。
決まり文句は『パワハラ我慢歴15年。アンラッキーナンバー1』。
長い間、ブラックな会社や上司達と戦ってきた人だった。
(私も、頑張らないと、ね)
課長に頭を下げ、周りの同僚にあとの事を頼みながら、桃香は手早く片付けを済ませてオフィスを飛び出す。
近頃の呼び出しの多さは、尋常ではない。そして悲しいことに、毎回この仕事が成功するとも限らないのだ。
それでも、一人でも多くの命をこの世に引き留めるために、今日も桃香達『アンラッキー7』は出動する。
「アンラッキーなのは、あなただけじゃないよ。だから、もうちょっと待って」
現場に向かって走りながら、桃香は小さく呟いた。
【終】
アンラッキー7、出動! 平 遊 @taira_yuu
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