おまじない

夕奈木 静月

第1話

「自分の名前のあとに『ラッキー7』と書いたメモを明日一日カバンに入れておくと願い事が叶うんだよ」


 魔法武術学校の教室で、エレナはわたしに微笑みながら言った。


 明日は7月7日。こっちの世界では七夕はないけれど、かわりにこういったイベントがある。


 異世界生活一年目のわたしには何から何まで初体験だ。エレナにいつも色々教えてもらっている。


「それで、どんな願い事をしたの?」


 気になってエレナに尋ねた。


「恥ずかしくて言えない……」


「男の子関係だ~! 絶対そうだー! 隅に置けないなあ……うりうりうり」


 エレナの脇腹をつつくわたし。


「あはははっ……! やめてよ……そんなんじゃないってば」


「でも、楽しみだね……。どんな願い事にしようかな」


 そわそわしてしまって授業にも身が入らない。


 やっぱり恋のお願い?


 それともストイックに自分の能力アップをお願いする? 魔術とか、武術とか。


 でも……最近やっぱり元の世界が恋しいときがあるんだよね……。


 元の世界には戻りたいけど、エレナたち友達とお別れするのはヤダなあ……。せっかく仲良くなったんだもん……。


 出来ればふたつの世界を自由に行き来できるようになりたいな。


 よし、願い事はこれに決めた。




 翌日、7月7日。


 教室ではみんなそわそわしていた。たかがおまじない、されどおまじないだ。


 このイベントは異常な盛り上がりを見せていた。




 そして結果が出る7月8日の朝。


 元世界との自由な行き来を祈ったわたしには何も起こらなかった。


 失意のまま学校に行き、教室に入る。クラスメイト達はおまじないによる願い事成就に沸いていた。


 うつむきながらエレナの方に向かう。わたしの暗い表情を察知したエレナが、


「嘘……!? はっ……! ごめん……言い忘れてたけど、自分の名前とつなげて書いちゃダメだからね……。必ず1マス開けるの」


 はやく言って欲しかった……。


 ちなみに、わたしの名前は『アン』だ。














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おまじない 夕奈木 静月 @s-yu-nagi

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