第4話

「お母さん、元気?連絡ないの?」

そう言い放ったのは父の同僚の奥さんだった。


その日は父の勤め先の新年会でタバコの煙が立ち込める会場を見かねて小学生の私を連れ出してくれたのだ。


なにを食べていたのかも覚えていない。


ただ2人で半個室のような店内でご飯を食べていて直前まで楽しい話をしてたはずなのに、なぜ目の前の女性は死んだはずの母が生きてるような口ぶりなんだろう、、、


途方もない時間が経ったような、でもあっという間なような不思議な不気味な時間が経った。

でもその不気味な時間で全てを悟ったのだ。


そして何事もなかったかのように

「うん、ないよーもう忘れたんじゃない?」


幸か不幸か奥さんはそれ以上聞いてこなかったし父にその話をすることもなかった。


その日分かったことは、私を取り巻く大人たちはみんな私を騙してた。


その事実だけが残酷にも私の中に残り、いまだシコリとして止まっている。

16年経った今でも留まり続けている。


思い返せばお墓もなければ命日もない。


父も祖母も母の話をした瞬間に機嫌を損ね話をすり替える。


思い当たる節は山ほどあった。


ただ信じたくなかったのかもしれない。


目を背け続けてた現実と向き合わされた時、私の中で何かが崩れ落ちていった。

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愛ってなんですか? もめち @molmomen

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