【KAC】幸運な男

譚月遊生季

幸運な男

 なぁ、この際誰でもいい。オレの話を聞いてくれ。

 

 オレは生まれてこの方、幸運な男と呼ばれてきた。

 なんでかって? 7月17日のPM5時……つまり、17時生まれだからさ。「17時」なんてアメリカじゃ滅多めったに使われねぇだろうが、そう書いたら7が綺麗に3つあるだろ? そういうこった。

 特に、オレは「ラッキーセブンス」で有名なシカゴの生まれでね。ガキの頃から幸運に恵まれるとチヤホヤされて育った。


 ……言いたいことはわかるさ。今のオレは、とても幸運そうに見えねぇだろう。

 ああ……そうさ。ある日を境に、オレの運命は大きく変わっちまった。


 仕事の関係で、中国に商談に行ったんだ。いつもの如く「ラッキーセブンス」ネタで場を掴もうかと思ったんだが……場はシーンとして、ちっとも盛り上がらねぇ。

 変だと思って通訳に聞いてみたら、気まずそうな顔で教えてくれた。


 なんでも、中国で「7」は不吉な数字なんだと。


 商談の失敗だけじゃねぇ。帰りの飛行機でも財布をスられた。

 そこで思い知った。オレは運が良かったわけじゃねぇ。「幸運な男」と周りにチヤホヤされてただけだ……ってな。


 散々な目にあったせいで、地元でも「おいおい、ラッキーセブンスはどうした?」とからかわれた。もう二度と中国には行かねぇぞ! ……なんて、思うだけで解決したと思ったよ。……その時はな。


 しばらくして、バカンスでイタリアに行くことになった。いい酒場があるって誘われて、飲みに行くことにしたんだ。イタリア美女と知り合いになるチャンスだとも思ってな。

 ……ああ、ワインも生ハムも最高だったよ。

 近くの席に美女が座ったのも最高だった。

 声をかけて、いつもの「ラッキーセブンス」ネタで場を盛り上げようと思ったんだ。イタリアでも「7」は特別な数字だからな。だってほら、神は7日間で世界をつくったんだろ?


 ……ああ。盛り上がったよ。「生まれた日に7が3つ!? もしかして、7月7日の朝7時生まれってこと!?」って言われたから、「惜しい! 7月17日の夕方17時だ」って返した。


 そしたらなんて言われたと思う?


 引きつった顔で、「……17? 17は……不吉ね……」って言われたよ。盛り上がってた雰囲気もすっかり冷え込んで、葬式みたいになっちまった。


 なんでもイタリアじゃ「17」が、「13」よりも不吉な数字で、建物や部屋番号でも飛ばされるぐらいなんだと!


 その後、オレは一度も幸運な男とは呼ばれなかった。

 一緒にイタリアに行ったダチ全員が、例の光景を目にしちまったからな。……それに、オレ自身、自分を「幸運な男」と名乗るのがバカバカしくなっちまった。

  

 ……運ってなんだと思う?

 思い込みだけで、人生ってのはこんなに変わるもんか?

 偶然だよな。気にした方が負けってやつだ。周りがどう扱うかってだけで、数字は数字でしかねぇ。


 オレが地中海のビーチで溺れて沈んだのも、まったくの偶然だ。そうだよな。

 そうだと言ってくれよ……!


 オレは幸運な男だった。こんなところで死ぬなんて嘘っぱちだ。

 誰でもいい。誰か、そう言ってくれよ。誰かオレを見つけてくれよ。


 誰か……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC】幸運な男 譚月遊生季 @under_moon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ