R.B.ブッコローの恋
海猫ほたる
R.B.ブッコローの恋
俺の名はR.B.ブッコロー。
見た目はミミズクのような姿だが、これでも創業113年の老舗書店『有隣堂』のマスコットキャラクターを務めている。ちなみに中の人はいない。いないってば。
「ブッコローさん、今日の撮影おつかれっしたー」
「おう、おつかれさん」
YouTube撮影を無事に終えた俺は、早速撮影された映像チェックに入る。プロフェッショナルとは常に自身を振り返る事にある。
「ブッコローさん、なんか、ブッコローさんにお客さんがみえてますが……」
PCに向かって羽で一生懸命マウスとキーボードを操作して撮影素材を編集していると、若い社員がおずおずとやってきて言った。
「俺に客……今日はそんな予定はないはずだが……だれだ?」
「それが……人じゃないんです」
「は?」
「でかい鳥なんです。デカくて丸い鳥が……」
「まさか、シマエナガちゃんか?」
シマエナガ……エナガ属、エナガ科、スズメ目に分類される鳥である。
主に北海道に生息しているが、白くて丸いその姿は大変愛らしく、最近北海道が猛アピールしている事でも知られていた。
YouTubeでひと目見た時から、俺はシマエナガちゃんのその可愛らしさに虜になってしまい、以来、俺はシマエナガに片想いしている。
まさか、そのシマエナガちゃんが俺に会いにくるなんて、こんな嬉しい話はあるだろうか。
俺も有名になったものだ。『有隣堂しか知らない世界』のYouTubeを真面目に続けてきた甲斐があったってもんだ。
「で、どこにいるんだ、シマエナガちゃんは。早く合わせてくれ!」
「ち、違います!」
「違う?」
「お客さんは、シマエナガじゃありません!」
シマエナガちゃんじゃないだと……どういう事だ。俺に会いに来るような鳥の知り合いなんて、他には思いつかないんだが……
「誰なんだ、その鳥は」
「トリ……と名乗っていました」
「だ・か・ら……なんの鳥かって聞いているんだが……」
「いえ、それが……トリ……という名前らしいです」
「まあいい、とにかく会ってみよう」
訳がわからないまま俺は、トリを待たせてあるという応接間に向かった。
そこにいたのは、紛れもなく、鳥だった……いや、トリだった。
「初めまして、カクヨムのトリです。以後お見知りおきを」
トリが「」を模したロゴとカクヨムと書かれた社名に『トリ』とだけ書かれた名刺を差し出してきたので、俺も思わず名刺を差し出してしまい、鳥同士の名刺交換が行われた。
名刺を交換する際についお互い羽をバタバタさせてしまうので、やたらと羽が舞うのが鳥同士での名刺交換の特徴だ。
「あなたが、ブロッコリーさんですね。噂はかねがね、聞いておりました」
トリは穏やかな口調でそう鳴いた。
「ブロッコリーじゃない。ブッコローだ。R.B.ブッコロー。ちなみにR.B.はリアル・ブックの略な」
「これは失礼しました。ブッコリーさん、わたくし、カクヨムという所でマスコットとして働いているトリなんです」
「ブッコリーじゃなくてブッコローな。で、そのトリさんがはるばる東京からこの神奈川まで、何の用があるってんだい」
「わたくしどもはWeb小説というサービスをやっている会社でして、うちには数多くの作家がおります」
「へえ、小説ねえ。それと俺が、どういう……?」
「実は……うちの看板作家の一人である、とある令嬢が連載をしているのですが、彼女は最近スランプでなかなか新作の話をかけないでいまして。事情を聞いた所、あなたの事をお話になるのです」
「へえ、作家さんが……ねえ」
「なんでも、あなたのYouTubeをみた時からあなたの事が気になって、夜も眠れないとか……それで連載も手につかなくて、書けなくなってしまったらしいのです」
「なるほど。俺も有名になったものだな」
「それで、こうなったら令嬢にあなたを合わせるしかないと思い至り、私がこうしてやって来たという訳でして……、一度会ってみてくれませんか」
「わかった、で、その作家さんは、どんな人なんだい」
「人……ではありません。実は、その方も我々と同じ、鳥なのです」
「鳥……鳥が作家をやっているのかあんたのところは……」
「まあ、私も鳥ですし、作家の姿は気にしないのがうちの方針でして……」
「で、どんな鳥なんだいその鳥は」
「真っ白な羽をした、丸くてとても愛らしいお方です」
俺は胸が高まった……そうか、わかったぞ……今度こそシマエナガちゃんだ。
シマエナガちゃんに違いない。
「分かった。ぜひ会わせてくれ!」
俺は一も二もなく快諾した。
トリは喜んで東京に帰って言った。
ちなみに後日、とうとう会えたその鳥は、シマエナガちゃんではなく、オオフラミンゴだった。
長い足でキーボードを打つその姿は、それはそれで素敵だった。
了
R.B.ブッコローの恋 海猫ほたる @ykohyama
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