大文字伝子が行く115

クライングフリーマン

大文字伝子が行く115

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 依田俊介・・・伝子の翻訳部後輩。元は宅配便配達員だったが、今はホテル支配人になっている。

 依田(小田)慶子・・・依田の妻。ホテルコンシェルジュ。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。

 南原文子・・・南原龍之介の妻。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。

 南原蘭・・・南原龍之介の妹。山城の婚約者。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部コウ・・・服部源一郎の妻。

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。料理教室経営者。

 大文字綾子・・・伝子の母。ずっと、犬猿の仲だったが、仲直り?した。だが、伝子には相変わらず「くそババア」と呼ばれている。

 金森和子二曹・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・警視庁警察犬チーム班長。EITOに出向する場合がある。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITO準隊員。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。投げ縄を得意とする。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITO準隊員。

 久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

 夏目警視正・・・警視庁副総監の直属。斉藤理事官(司令官)の代理。

 青山たかし・・・愛宕の上司だったが、退職。後に、EITOエレガントボーイの一員となる。EITO準隊員。

 橋爪警部補・・・元島之内署の警部補。丸髷署生活安全課に転勤。署長命令で、EITOと協力関係にある。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。みちるの夫。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。

 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダーと呼ばれる。夏目警視正と、警察学校同期。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。

 久留米ぎん ・・・EITO大阪支部メンバー。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。

 指原ヘレン ・・・ EITO大阪支部メンバー。



 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==

 ==EITOエンジェルスとは、EITO大阪支部の行動部隊である。==


 午後1時。伝子のマンション。

 池上葉子が、なぎさと共にやって来た。

 「もう大丈夫よ、高遠君。後1日は入院させるわ。お腹の子に影響はないわ。」

 池上医師の言葉を聞いて、高遠は涙した。

 「ありがとうございます。」と、高遠は言った。

 「過労が主な原因だけど、神棚を見た後で倒れたのよね?」と、なぎさを振り返って池上医師は言った。

 「え?」「おにいさま。私たち、おねえさまに黙って、おにいさまの名前の書いた札を神棚に追加したんです。神棚は元々臨時作戦室にあったんですけど・・・。」

 「ああ、そう言えば、ありましたねえ・・・え?僕のお札?」

なぎさと高遠の間に入って、再び池上医師が説明した。「高遠君が、生き神様だから。」

 高遠は絶句した。

 「それで、伝子さんは、伝子は卒倒したんですか?」

 「俺のせいだ、謝るよ、高遠。」と、筒井が入って来て謝った。

 「どういうことです?」「高遠は『救いの神』だ、『生き神様』だ、って言ったのは、俺なんだ。で、大蔵さんが、お札を作って、神棚に飾ったんだ。」

 「何か複雑な気持ちですね。」

 暫くいた、池上医師は、筒井となぎさと共に帰って行った。

 午後5時。

 Linenでメンバー会議をすると、皆爆笑した。しかし、黙っている高遠を見て、物部は「笑ってすまない。でも、みんな感謝しているんだよ、お前の推理力に。」と言った。

 「高遠君の着想力があったからこそ、学祭も成功した。私は手を合せていたわ。」と、栞が言った。

 「高遠は、色んな事件に巻き込まれていく内に、推理力が練られて行ったんだよ。」と依田も賛成した。

 「度胸もな。よくテラーサンタと直に話せたよ。俺には真似出来ない。例え演技でもな。」と、福本が言った。

 「みんなに好かれる人に間違いないし、犬のサチコやジュンコだって、ほら!」と、祥子はスマホをサチコやジュンコに向けた。2匹とも、尾を振り、興奮した。

 「原動力は、やはり、先輩への愛情ね。」と慶子が言い、「私たちも、いつも、言いお手本が近くにあって、幸せね、って言っているのよ。」と、蘭が言った。

 「蘭の言う通りさ。僕らは、いつも先輩や高遠さんに勇気を貰っているんだ。」と、山城が言った。

 「生き神様って言われて迷惑なの?高遠さん。」と、服部が尋ねた。

 「そんなことないよ。嬉しいけど、恥ずかしい。それだけ。そんなに立派じゃないし。今回だって、『まぐれ当たり』だしね。」と高遠が言うと、「マグレ、なんですか?信じられない。」とコウが言った。

 「予知能力なんかないですよ、当然だけど。」と、高遠が言うと、「そこが高遠ちゃんのいいところよ。奥ゆかしいわよね。」と、編集長山村が言った。

 「確かにね。」という声に振り返ると、藤井と彩子がたたずんでいた。

 「いつから、いたんですか?お二人は。」「10分くらい前からかな。チャイム押したわよ。」

 高遠は、ため息をついた。

 「とにかく、今夜は、ここにも秘密基地にも帰らないらしい。」「今日くらい、お相手してもいいわよ。」と綾子が言うので、「僕はまだ死にたくない。」と、高遠は 綾子を睨んだ。 

 「あ。南原さんは?高遠。」と、物部は高遠に尋ねた。

「明日、病院にお見舞いに行くって言ってたわ。」と、蘭が答えた。

 翌日。午前11時。池上病院。伝子の病室。

 「先輩。大丈夫だったんですよね。」「過労ですよね。」南原と文子は交互に言った。

 「そろそろ、退院準備して下さいね。」と言いながら、病室に看護師長の真中瞳が入って来た。

 「特に、荷物はないが・・・。」と伝子は応えた。

 「そうでしたね。」と、真中は舌を出した。

 真中が出て行った後、「先輩。高遠さん、家事やっている暇が無いのなら、文子に 時々家政婦やらせますけど。」と南原が言った。

 「ありがとう、南原。でも、その案は平常時だ。」「え?」「東日本大震災の日は 3月11日。明後日だ。何かしでかすかも知れないが、生き神様の学も作戦に苦慮している。」

 南原は返す言葉が無かった。

 翌々日。3月11日。午後1時。EITO秘密基地会議室。

 マルチディスプレイに理事官が映っている。

 「では、生き神様こと、高遠君に作戦を説明して貰おう。」と、理事官は言った。

 「理事官、笑えない冗談ですよ。先ず、ギリギリになって申し訳ない。僕も伝子も、福島県のことが気になり、どうも練りづらかった。皆さんもご存じの通り、福島県の被害が最も大きかった。復興した土地を狙うのではないか?と。しかし、理事官のアドバイスもあって、福島や東北は自衛隊に作戦を委ねることにしました。EITOとしてとるべき対処は、東京都内でのイベントあるいは重要施設での事件予防です。」

 「うむ。今年は福島県で『追悼復興記念式』が行われると聞いている。市橋総理も式辞を読まれる。本来ならEITOからも参列すべきだが、今回は、一ノ瀬1等陸佐、日向1等陸佐のみ自衛隊員として警備に参加している。で、高遠君。予言は?」

「で、検討し直そうと思っていたら、藤井さんが伝子さんの車のワイパーに挟まっていた、と手紙を持ってきました。スキャナーで読んで電子ファイルにしてEITOに送りましたが、読みますね。」


 《いやあ、連絡遅れてごめんなー。東日本大震災の時に事件起す積もり無かったんだよね。何せ、ウチの身内も地震で亡くなったからさあ。結果的に停戦状態だったかな。部下が暴れたかも知れんが、君らの手に余るほどじゃなかったよね。で、君らもヒントなしじゃ面白くないよね。ヒントあげるから、一緒に盛り上げてクリアしようぜ。サラリーマンがリストラされたら、どうするかな?あ、いっけなーい。優しいヒント出しちゃった。まあ、いいか。一回戦みたいなものだから。》


 「以上です。退職したら、普通は求人誌に頼るか縁故就職か派遣会社に登録して非正規で働くかですが、リストラとなると社会保険事務所に行って、会社理由の失業給付の手続きをしてから、職業安定所か自己応募ってことになりますね。」

「それで?」と、理事官が督促すると、「社会保険事務所を襲うから用心しろ、というメッセージだと思います。インターネットで検索すると、東京都には、これだけあります。書き出しました。」


1,千代田・・・千代田区

2.中央・・・中央区

3.港・・・港区

4.新宿・・・新宿区

5.杉並・・・杉並区

6.中野・・・中野区

7.上野・・・台東区

8.文京・・・文京区

9.墨田・・・墨田区

10.江東・・・江東区

11.江戸川・・・江戸川区

12.品川・・・品川区

13.大田・・・大田区

14.渋谷・・・渋谷区

15.目黒・・・目黒区

16.世田谷・・・世田谷区

17.池袋・・・池3袋

18.北・・・北区

19.板橋・・・板橋区

20.練馬・・・練馬区

21.足立・・・足立区

22.荒川・・・荒川区

23.葛飾・・・葛飾区

24.立川・・・立川市、昭島市、国立市、東大和市、武蔵村山市、小金井市、日野市、国分寺市

25.青梅・・・青梅市、福生市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、檜原村、奥多摩町

26.武蔵野・・・武蔵野市、三鷹市、小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市


 「点々の後ろは管轄です。他にも、社会保険労務士がいる場所はありますが、この26カ所全部または一部が対象です。」

 飯星が、伝子に薬を飲ませた。「アンバサダー。深呼吸3回して下さい。」

 「心臓に悪いわね、おにいさま。これ、全部守るの?」と、あつこが言った。

 「行動作戦は、僕の担当じゃないよ。当てずっぽうよりはマシだね、ヒント貰えたのは。」と、高遠は冷静に言った。

 「私たちだけじゃ、カバー出来ないわ。」と、あつこは言った。

 「理事官・・・。」と、みちるが言いかけた。

 「白藤、皆まで言うな。大阪支部に応援を頼もう。勿論、警察官や自衛官の応援も入るが、何をしでかすか分からないからな。高遠君。今日は土曜だ。明後日の月曜日まで、社会保険事務所は開かない、そうだね、高遠君。」理事官は念押しした。

「そうです。他の事件の可能性もありますが、今のヒントの分は、明後日までの余裕が出来たことになります。」と、高遠は応えた。

 翌日。午後2時。千代田社会保険事務所。

 男が震える手ナイフを突きつけて、「金をだせ。」「大金はない。金融機関じゃないんだから。」と言う職員と押し問答していた。

 「落ち着きましょう。」と言い、男のナイフを奪ったのは、エマージェンシーガールズ姿の、なぎさだった。

 警察官や警備員が駆けつけたが、「EITOの案件です。どこか別室を用意して下さい。まずは話を聞きましょう。」と、なぎさは言った。

 午後2時。中央社会保険事務所。

女がナイフを両手で持ち、叫んでいた。「早く、出してよ!失業給付出してよ!差別しないでよ!!」

 支離滅裂な女の要求に、職員は対処しかねていた。警備員が来て、取り押さえようとしたが、「ちょっと待って!」と言った者が入って来た。「EITO大阪支部のEITOエンジェルです。そう言ったのは、総子だった。エマージェンシーガールズは広く知られるようになったが、EITOエンジェルは知られていない。そこで、芦屋姉妹は『大阪府警公認』という、大阪府のシンボルマークと警察のシンボルマーク(桜の代紋)が刷られた身分証を用意していた。総子は、それを職員と警備員に見せた。

「不審と思われるようなら、大阪府警か警視庁に確認して下さい。この人に確認したいことがあります。職員さん、警備員さん、立ち会って下さい。」

 総子は、用意された部屋に通され、女から事情を聞いた。

 午後2時。港社会保険事務所。

 男が銃を持ち、千代田社会保険事務所の事件のように、職員を脅していた。

 増田が現れ、なぎさと同じように、利用者の目から遠ざけた場所で男から事情を聞いた。

 モデルガンだとは思っていたが、弾さえ入っていなかった。駆けつけた警察官が誤射でもしてしまうと大変な事態になっているところだった。

 午後2時。新宿社会保険事務所。

 やはり、同じようなことが起こっていた。女が持っているのは、明らかにモデルガンで、トリガーも引かれていなかった。

 ぎんは、深呼吸をして、コマンダーこと大前がレクチャーした通りの行動を取った。

 緊張の場を平定しようとしている、EITOエンジェルを名乗る女は、冷静に対処している。所長は、職員に命じて警視庁に確認した。久保田管理官が出て、特命で来ているEITO大阪支部のEITOエンジェルの指示に従うように依頼された、という職員の報告を受けて、所長は応接室にEITOエンジェルと女を入れ、自らも職員と共に立ち会った。

 一方、他の職員には、「心配ないから」と説明するように指示を出した。

 午後2時。杉並社会保険事務所。

 金森は、モデルガンを持って、職員を脅している男の銃口を押えた。

 「エマージェンシーガールズです。みなさん、落ち着いて下さい。職員さん、別室を用意して下さい。この方に伺いたいことがあります。」

脅されている職員と別の職員が、「すぐに用意します。」と言って、走り去った。

午後2時。中野社会保険事務所。

 EITOエンジェルの姿で入って行くのは、少し勇気がいるな、と思いながら、祐子は入って行った。

 何事も起こっていないようで拍子抜けしたが、トイレから出てきた男が、ナイフを取り出した。レクチャーしてくれたコマンダーに感謝しながら、祐子は、その男に近づいた。

 午後2時。上野社会保険事務所。

 大町は、入って行くと、『予習した通り』の光景に驚いた。EITO秘密基地で、高遠から聞いた対処法通りに、行動した。伝子からは、予め、社会保険事務所には、極秘裏に通達をしてある、と聞かされていた。

脅している男は、素直に従ってくれた。

 午後2時。文京社会保険事務所。

 悦子は説明に苦慮していた。身分証を出す手順を忘れてしまっていることに気づき、身分証を出して改めて職員や警備員に説明した。実は、EITOエンジェルが行くかも知れないという話を、久保田管理官が失念したのである。

 「エマージェンシーガールズの偽物じゃなかったんですね?」職員の態度が変わり、ナイフを持って脅していた女と、悦子を別室に案内した。

 午後2時。墨田社会保険事務所。

 田坂は、あまりにも高遠が予測した通り展開するので驚いていた。無血、いや、無傷で『平定』するのは初めてだった。

別室での、脅していた男の供述は、『リストラされて、社会保険事務所に来たが、すぐに失業給付が貰えると思っていたが、当てが外れた。事務所を出ると、上手い手がありますよ、と声をかけられた。そして、ナイフを渡された。試しにやってみた。』という供述も、高遠の予言から大きくは外れていなかった。

 午後2時。江東社会保険事務所。

 ここでも、少し揉めていた。真知子は、『EITOエンジェルスはまだまだだな』と思いながら、身分証を出して説明した。職員は、やはり単なる『偽物のコスプレ』と考えたようだが、久保田管理官の『エマージェンシーガールズの代わりです。ユニフォームで本部と支部を区別しています』という一言で納得したらしい。態度が豹変した。

 真知子は、ため息をつきながら、モデルガンで脅していた男と会議室で向かい合い、話を聞いた。

 午後2時。江戸川社会保険事務所。

 新町あかりは、警察官姿で現れた時、機関銃っぽい男が職員を脅していた。

あかりは、自分の胸に機関銃を宛がった。「セクハラも罪になるわね。ねえ、撃ってみて。乳房を撃つなんて、最低の男ね。」

驚いている職員に、「署に連れて行く前に、事情聴取します。部屋を用意して下さい。」と強い口調で言った。

 「やっぱり、先輩ほど迫力ないなあ。」と、呟きながら、あかりは用意された部屋に向かった。

 午後2時。品川社会保険事務所。

 今日子は、『怪我ないように』と3度唱えてから入った。コマンダーから教わったように、まず職員と警備員に身分証を見せ、ナイフを持って震えている男に「大丈夫やで、あなたの味方やから。怖がらんでもええのよ。ちょっと間、話聞くだけやよってに。」

 男は頷き、大人しくなった。警視庁に問い合わせた職員は態度を豹変させ、ペコペコしながら、応接室に男と今日子を案内した。

 午後2時。大田社会保険事務所。

颯爽と現れた、あつこは、男から機関銃を奪い、男に照準を定めてから、トリガーを引いた。

 慌てた職員に、「あら、これオモチャだわ。しかも、弾が入っていない。職員さん、この人、ちょっと可愛がって・・・いえ、事情聴取をしたいので、部屋を用意して下さる?鍵のかかる部屋よ。」と言った。

職員の股間にシミが出来るのを見て『やりすぎたかな?』と、あつこは思った。

 午後2時。渋谷社会保険事務所。

 真美は緊張していた。中を覗くと、やはり男が職員を脅している。

 「ええと、コマンダーは・・・取りあえず、深呼吸やな。紀ちゃんから貰った、お守りあるし。当たって砕けろ、や。」と、呟いた。

脅されていた職員も、脅していた女も驚いていたが、コマンダーのシナリオ通りの言動は、職員をすぐに協力行動させることに導いた。

 午後2時。目黒社会保険事務所。

 みちるは、「やっぱり、ワンダーウーマンがインパクトあるんだけどなあ。」と言いながら、職員を脅している男に、シューターを一閃して、ナイフを取り上げた。

シューターとは、先端に痺れ薬が塗ってある手裏剣で、EITO戦用の武器であるが、 みちるは、ナイフの側の空を切っただけだった。

 みちるは、伝子の指示通り、脅している男の話を聞く準備に入った。

 午後2時。世田谷社会保険事務所。

 「コマンダーは動物園の動物と同じと思えばいい。飼育員モードで接したらええ、って言われたな。」と呟いた。

 美智子は、「済みませーん。。」と下手に言いながら、入って行った。

 午後2時。池袋社会保険事務所。

 安藤は、「いつもと勝手が違い過ぎるわ。でも、アンバサダーの命令には従わないと。」と、言いながら、入って行った。

 「お取り込み中、お邪魔しますよー。」安藤の声に、脅している男と職員が振り返った。

 午後2時。北社会保険事務所。

日向は、エマージェンシーガールズ姿なので、伝子っぽく振る舞おうと考えていた。

 男は既に職員と警備員の押えられていて、がっかりしたが、『事情聴取』を申し出た。

 午後2時。板橋社会保険事務所。

 稽古は、気楽にやってこい、と言われたコマンダーの言葉を思い出していた。

 殆ど一発勝負で、自分一人というのが、大きなプレッシャーだったが、オスプレイから降りる時に言われた総子の言葉を思い出した。

 「稽古は意外と本番に強いタイプや。ウチも兄ちゃんも知ってるで。」司令官やチーフが信頼してくれている、覚悟を決めて入って行ったが、利用者の一人が、職員と協力して、脅した男を押さえ込んでいた。しかし、そういう場合は想定内なので、コマンダーの命令通り、『事情聴取』することにした。

 午後2時。練馬社会保険事務所。

 稲森は、得意の投げ縄で男を取り押さえた。職員に事情を説明すると、すぐに会議室を用意してくれた。

 午後2時。足立社会保険事務所。

 飯星は、既に利用者の一人と職員が取り押さえた男と、職員に言った。

 「絆創膏くらいなら、ありますよ。」

 午後2時。荒川社会保険事務所。

 ヘレンは、張り切って、コマンダーと総子の作戦を実行した。

 襲った男の『事情聴取』をしている内、本物の銃声が聞こえた。

 午後2時。葛飾社会保険事務所。

 江南は、モデルガンを持って愚図る男にこう言った。

 「何なら、外で待機している警察犬の事情聴取を受けてみる?」「いえ。人間の方がいいです。私、犬語は苦手なので。」

 午後2時。立川社会保険事務所。

 襲っていた男を、職員が押さえ込んでいた。「あら、お見事。ついでに私の事情聴取に付き合って下さる?」と、伝子は笑って言った。

 午後2時。青梅社会保険事務所。

 愛宕がやってくると、案の定、脅している男は興奮していた。「邪魔しないでくれ!」

 「ちょっと騒ぐだけのバイトです、給付は早くならないけど、すぐに放免してくれるから、お得でしょ。そう言われたんだよね、君。」と言いながら、後方から、橋爪警部補は羽交い締めにし、愛宕は逮捕した。

午後2時。武蔵野社会保険事務所。

 「すぐに誰か応援に来るから」という言葉に勇気づけられた静音は、利用客の振りをしてやって来ていた。

 トイレから出てきた男が、ナイフを持って、職員を脅し始めた。

 静音はトイレに駆け込み、モップを見付けて、男を後方から襲った。

 「面!!」男は気絶した。「1本!」お見事!!」と、後から来た久保田管理官が言った。

 午後3時。荒川社会保険事務所近くのビル。

 近寄った、ヘレンの袖を掴む男が言った。「命令違反はいかんな。取りあえず、帰れ、EITOエンジェルス。」男はDDバッジを見せた。

 「本部の筒井だ。ここは、俺達が担当している。」ヘレンは、頷くと、去って行った。

 DDバッジとは、緊急信号を送るバッジのことで、オスプレイを通じて、EITOに通信をおくることが出来る。

 まだ、この時は、新たな騒ぎを予兆していなかった、筒井も、ヘレンも。

 裏口を見に行っていた、青山が戻ってきた。

 「迷路のような路地が続いています。ひょっとしたら・・・。」

 「うむ。踏み込もう。」2人が組事務所に入って行った時、凄惨な光景が広がっていた。どの部屋も死体だらけだった。

 「鑑識呼んでくれ。俺は本部に連絡する。」

 午後5時。伝子のマンション。

 EITO用のPCが起動し、画面に理事官が現れた。

 「いいニュースと悪いニュース、どっちを先にする?」と、理事官が言った。

 「悪いニュース!」高遠と伝子は異口同音に言った。

 「悪いニュースは、『手打ち』が予定されていた、大賀組と横浜大賀組が皆殺しに逢った。ヤミ金の黒幕と言われていた2つの組だ。勿論、警告はしていたがんだがね。那珂国マフィアは、いや、今度の敵の枝の一つは、容赦ない奴と分かった。いいニュースは、諸君と大阪支部のお陰で、社会保険事務所の襲撃は全て平定された。こちらの枝は、素人を欺して踊らせる名人のようだ。踊らされた方は、微罪で済むと思っていたようだが、そうはいかないだろうな。とにかく、こちらのパートは無傷で終った。惨殺事件の方は、明日、副総監と久保田管理官が記者会見を行う。以上だ。帰宅出来る者は帰れ。」と、理事官は言った。

 午後7時。伝子が帰って来た。

 「おかえり。総子ちゃんは、今回泊まらない。EITOエンジェルスでトラブったらしい。さっき、南部さんが報せて来た。これを見て。」

帰るなり、報告をした高遠は自分のPCの画面を伝子に見せた。ネットニュースだ。

 [EITOエンジェルスの正体は、可愛い女の子だった。]

New tubeの画面に映っているのは、EITOエンジェルスのユニフォームのフード部分を脱いで汗を拭っている女の子だった。

 伝子のスマホが鳴動した。画面には、大前が映っている。

 「伝子さん、すみません。」泣きながら大前が謝っていた。

 ―完―

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