アンラッキーをラッキーに

ゆりえる

国際結婚の難点は……

 今から7年前のこと。

 対立国だったラウンド王国とアンギュラー王国は、ラウンド王国の新国王ラウデンと、アンギュラー王国の新女王アンジュラ―が即位したのを機に、和平条約が締結された。

 以来、国交も両国の国民間の交流も盛んになった。

 更に数年前からは、両国民の国際結婚も増え出した。


 ただし、双方の国民は価値観の違いがあらゆる点で浮き彫りとなり、お互いの主張を曲げる事が出来ず、早々に離婚する夫婦も少なくはなかった。


 両者のもっとも顕著な相違点は、美しさの基準だった。


 ラウンド王国は、丸みを帯びた形状が美しいもの、正しいものとされ、角ばったものを汚点や修正すべきものと見なしていた。

 一方、アンギュラー王国では、角張ったもののみを尊んだ。


 その価値観は、数字において大きく影響し、ラウンド王国では、丸みを持たない1や4や7という数字を忌み数として嫌厭けんえんしていた。

 特に、7が3つならんだ777の状態は、最悪の凶数『アンラッキー7』として忌み嫌われていた。


 もちろん、アンギュラー王国では、角ばっているラウンド王国の忌み数こそが、ラッキーナンバーとされ、特に777は最高峰だった。



 ラウンド王国に住んでいるミランダと、アンギュラー王国出身のゴンジョテーは、2ヵ月前に入籍したての新婚ほやほやの国際結婚カップル。


 結婚前は、双方の国を行き来してデートを繰り返していたが、入籍後からは、ゴンジョテーは、ラウンド王国へ移り住んだ。

 幸い、ミランダの家族が住むドーム状の広い家には、沢山の丸い空き部屋が存在していた。

 当初は、その丸い間取りや丸い家具などに囲まれて、落ち着かなかったゴンジョテーだったが、いつしかその環境にも慣れ出した。


 ところが、6の月の有る日、ゴンジョテーが興奮気味に発した言葉により、ミランダの家族に不穏な空気が流れた。


「もうすぐ、7月7日だ! この日は、僕の誕生日! 僕はなんと、7時生まれなんだ! 777なんて、最高のラッキーナンバー生まれだから、僕と結婚した君も、超ラッキーな人間なんだよ! 君と過ごす初めての誕生日だから、盛大に祝ってくれよ」


 凍り付いたような表情となった、ミランダの家族一同。


「ゴンジョテー、申し訳無いけど、その日は、お祝いするわけにはいかないのよ」


「何だって? 僕が生まれてなかったら、君とこうして一緒にいられなかったというのに! ミランダ、君は僕が生まれて来て、嬉しくはないのか?」


 自分の生まれた数字の幸運を周りにも分けてあげようとしていたが、拒絶されるとは、思いもよらなかったゴンジョテー。


「いいえ、そういうわけではないのよ。この王国では、777は『アンラッキー7』 と呼ばれて、もっとも忌み嫌われている数字なのよ。元々、毎年7月7日は外出禁止だけど、今年はちょうどラウデン暦7年だから、7月7日は『アンラッキー7』の最凶日として、休日にはなるけど、外出禁止はもちろんの事、家の中でも物音立てず厳粛な雰囲気で過ごさなくてはならないのよ」


「そんな~! せっかく、君と過ごす初めての誕生日になるというのに、どうしてそんなお葬式みたいな事になるんだ!」


 誕生日を心待ちにしていたゴンジョテーにとって、たまたま忌み数が並んでいたせいで、楽しむ事も憚られるのは残念だった。

 ミランダも、そんなゴンジョテーが気の毒でならない。


「そうだわ! 仕事を休んで、アンギュラー王国に向かいましょう! あなたの王国では、その日は、とてもラッキーな日なのでしょう?」


「それは名案だ! 君に僕の国の盛大なお祝いを見せてあげる事が出来るし、今から楽しみだ!」


 二人は、有給を3日間使い、前日の7月6日のうちに、ラウンド王国を出発した。

 前夜祭の華やかな街並みが二人を迎えてくれた。

 翌朝は、朝早くから花火の音が鳴り響き、777のフェスティバルが開催された。

 

「わ~っ、すごいパレード! 何だか、皆があなたの誕生日を祝ってくれているような感覚になれるわね!」


 初めて目にした華麗なパレードに興奮気味のミランダ。


「今年は777だから、特別に盛大だけど、それ以外の年でも、7月7日は、大なり小なりお祭りムードで楽しく過ごせるよ」


「毎年、あなたの誕生日は、アンギュラー王国で過ごす事にしましょうよ!」


「そう言ってもらえると嬉しいよ、ミランダ!」


 二人は後夜祭が終わるまで居たい気持ちを抑え、夕刻までアンギュラー王国で過ごし、翌朝の仕事に支障が出ないように帰国した。


 ラウンド王国の領土に入ると、まだ『アンラッキー7』の名残りを残し、街行く人々は殆どいなかった。


「何だか、私達だけが楽しんでしまって、この国の7月7日生まれの人達に申し訳無い感じね」


「ねえ、ミランダ、来年は僕達二人はもちろん、ラウンド王国で生まれた7月7日生まれの人々も、それ以外の人々も希望者を募って、せっかくだから、皆で一緒に楽しい時間にしないか?」


「そうね! 誕生日は大事だもの! 楽しみを皆で分かち合わないとね!」


 それ以後の7月7日、二人の周囲には、忌み数というのも忘れ、その日を祝う人々で溢れ返った。


               

               【 了 】

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