無限中華街 Infinite Chinatown

中原恵一

No-clipped reality into the Infinite Chinatown

 みなさん、ございます。私の故郷、静岡県浜松市は控えめに言ってヤバイんです。


 三年間埼玉、半年東京に住んで、段々故郷の餃子が恋しくなってきた私。

 家族はみんな中区に住んでいて、外食なんかするには良い場所でした。

 そんなワケで二週間前、餃子が食べたいから一週間ぐらい泊まっていいかと実家に電話をかけたところ、「自分で冷凍餃子を買え」と怒鳴られてしまいまして。


 ある日の夜、とうとう耐えきれなくなった私は原付ホンダに乗って夜のドライブに出かけました。

 地元のセブンイレブンによったところで、一つ目の異変に気づきました。

 セブンイレブンを出て駐車場に歩いてきたところで、一人の男が電話ボックスの中に立っているのを見つけたのです。あのイマドキ誰も使わない公衆電話の、です。

 彼はそこにただ突っ立って何かブツブツ呟いていました。一体全体何をしているのかしら、と思ったものです。

 ま、どうでもいいかと思い直し、私は原付に乗りました。エンジンがスタートしてから運転に集中していたせいで気づかなかったのですが、もう一度男の方を見たら彼は跡形もなく消えておりました。

 これはおかしい。


 家に帰ってきてから、私はセブンで買った餃子を料理して食べました。味は悪くなかったのですが、一時間もするとなんだか気分が悪くなり始めたのです。

 トイレに駆け込んだ私は真っ先に、さっきの餃子に当たったのかな、と疑いました。でも、私が食べたのはガソリンスタンドで売ってる衛生管理のなってない寿司とかではなく、ただの冷凍餃子です。そんなまさか。


 意識がもうろうとする中、私はここでようやく先ほどセブンで見かけた男のことを思い出しました。

 その時になって、私はやっと理解したのです。

「アイツ……、まさか私に呪いを……!」

 それに気づいたとき、私の身の回りの全てが突然消え、私は意識を失いました。


 再び目が覚めたとき、私の目の前には巨大な黄金の招き猫フォーチュン・キャットがいました。遠くの方なのでハッキリとは分かりませんが、たぶん自由の女神ぐらいの大きさです。

 それだけでも奇妙なのですが、辺りを見渡すと私はもっと恐ろしいことに気づいたのです。

 縦横無尽に張り巡らされた漢字のネオンサインと、その間を埋めるように広がるやたら破風の反りあがったド派手な色の建物。ところどころに真っ赤な鳥居やタイカレー屋なんかも見えます。

「ここはひょっとして……中華街チャイナタウン?」

 まるでニューヨークやサンフランシスコのチャイナタウンのような光景が、重力など無視して上下左右三百六十度延々と続いているのです。


 どうやら私は現実を壁抜けバグノークリップして、無限中華街チャイナタウンに辿りついてしまったらしいのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無限中華街 Infinite Chinatown 中原恵一 @nakaharakch2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ