未完

杜侍音

未完


 ──7 7 7 6


 自販機で飲み物を買えば、始まるルーレット。

 同じ数字が4つ揃えばもう一本貰える仕様のちょっとした運試し。


 ──7 7 7 8


 3つまでは揃えられる。

 しかし最後だけが揃わない。確率は1/10なはずだというのに。

 期待だけさせて、いつも最後に裏切るのだ。


 ジュースを7本買った。

 いまだに数字は揃わない。


 ……思えば自分の人生はいつもそうだった。期待を抱かせてから現実を叩きつけてくる。

 運動会のリレーではゴール前に転んで一位を逃した。

 好きになった人には必ず恋人か夫がいた。

 就職活動は最終面接まで行って落とされた。

 ここまで来れば自分に足りないのは実力ではなく運ではないか。

 その疑念を払拭したくて、今こうしてジュースを買い続けている。


「──あ、お金」


 手持ちの現金は全て使い果たしてしまった。

 荷物には大量のジュース。しばらく飲み物に困ることはないが、果たしてこの行為に意味があるのか。

 『始めたことは最後までやり切れ』

 父親が死ぬ前日に残した最期の言葉がこれだった。そういえば親の死に目にもあと一歩のところで間に合わなかった。

 俺は近くのコンビニに行って現金を下ろしてきた。


「お、ラッキー!」


 元の場所に戻ると、男子高校生が数字を4つ揃えていた。様子を見るに一発で当てたようだ。ワイワイと友達と話しながらこの場を去っていく。

 ……ここはしばらく当たらないだろう。近くの自販機に場所を変えた。


 ジュースを77本買った。

 いまだに数字は揃わない。


 辺りに大量のジュースが置かれた異様な光景に周囲から注目を集め始めた。

 再び現金が尽きる。しかし、ここの自販機は電子決済ができるので引き続き買う。


 ジュースを777本買った。

 いまだに数字は揃わない。


 もう十台以上、自販機を空にした。

 警察まで来た。

 それでも俺は当たるまでジュースを買い続ける。


 ──7 7 7 8


 ジュースを7777本買った。

 いまだに数字は揃わない。


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未完 杜侍音 @nekousagi

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