第3話 カメラは見ていた
まるで刑事ドラマをみているようなグレーの部屋でパイプ椅子に座っている自分が信じられなかった。外は雨が降り出したようで、しとしと細かな雨が降っている音が部屋に響いている。どのくらい時間がたったのかがわからないが、ものすごく長い時間待たされているような気がしている。
突然、ガチャと大きな音を立てて大きくドアが開いた。開いたドアからは3人の私服刑事と思われる人がドヤドヤと部屋に入ってきたのである。
「初めまして。刑事課の吉住です。こちらは同じく、黒沢と野上です」
「この度は踏切事故に関して、情報提供をいただき誠に感謝しております。我々も頂いた情報を元に事故処理を進めているところです。」
「今回の踏切事故に刑事さんがかかわる事があるのですか」私はちょっと不思議に思って、質問を切り返してみた。
「事故の場合、通常は交番勤務の警察官が処理をするのですが、今回はSDカードをお預かりしているので、調査をする担当が本署におります。その関係で調査結果に事件性がないかを確かめるために、刑事課にも事件に関連する事がないかを念のため確認しています」
「そうなんですか。ご苦労様です」
それにしても、3人もこんなことで刑事がくるなんてちょっと違和感を感じる。そんなに警察は暇なのだろうかとも思ってしまった。
続けて吉住という刑事が口を開いて、いきなり違った視点の質問を始めた。
「突然の質問で恐縮ですが、4月10日の夜はどちらにおられましたか」
「家の近くのキャンプ場でソロキャンプをしていました。それがどうかしましたか?
」
「昨日、キャンプ場で撲殺された遺体が森の中で発見されたのです。あなたの行ったキャンプ場の森に近い場所なのですが、何かご存じありませんか」
刑事は柔らかい口調なのに、恐ろしい内容の話をした。
「まさか、あの事を知っているなんて事はないよな」心の中でつぶやいた。
この部屋に案内された時点で、私には少しだけ不安がよぎることがあった。そのことは誰も知らないはずだし、誰にも見られていないはずなのだから。そんなはずはない。ありえない。
「……」私は、刑事からの質問に答える事ができない。
「我々はキャンプ場での撲殺された遺体に当然ですが事件性があると考えています。鑑識の調べでは、背後から何者かに固い金属と思われる道具を使って殴られた後があるとのことでした。殴られた頭部は結果的には致命傷にはなっていないのですが、山に放置されていたために被害者はそのまま亡くなってしまっています」
「もう一度聞きますが、何かご存じありませんか」
気を取り直して、刑事に答える。
「すみません。踏切事故の事情聴取ではないのでしょうか。追加で聞きたい事があるということでしたので、来たのですが今のお話と何の関係があるのでしょうか」
私は不満げに答えた。しかし、体は反応しているので心臓が飛び出しそうほど、心拍数が上昇している。
「実はあなたの車載カメラの映像を調べさせていただきました。確かに、踏切事故の映像が残されていましたので、当時の事故に関する状況を確認させていただいています」
続いて、黒沢という刑事が話を始める。
「車載カメラの映像については、すべての録画情報を見せていただきました。その際に、一部本人に確認させていただきたい部分があることがわかりました」
しばらく、沈黙をしたあと、私は重い口を開いた。
「それとキャンプ場の話は何か関係があるのでしょうか」
「はい、あります」野上という刑事がすぐに答える。
「なんでしょうか。それは」
「それは見ていただいた方が早いと思いますので、これを御覧ください。この映像は今あなたが持っているSDカードのコピーから抽出した映像です」
野上刑事が持ってきたパソコンから、すぐに映像がながれた。画面いっぱいに男性が車のボンネットに激しく叩きつけられるシーンから始まった。次に何度もボンネットから引きずり出されて、車の前でシャベルを持った男が、ボンネットからひきずりだされた男性を何度も殴っているシーンが20秒ほど映し出されているのである。
「車載カメラには、イベント録画機能といって、車の停止中でも盗難防止などのために大きな衝撃を受けた際に録画をする機能が搭載されています。あなたの車の車載カメラにも同じ機能があるのでしょう。
おそらく、最初にボンネットに被害男性が体を打ち付けた際に、カメラが撮影を始めたと思われます。男性にシャベルと振り上げているのはあなたに間違いはないですよね。どうですか。はっきりと顔が見えますよね」
「……」私はしばらく何も答える事ができない。
吉住刑事が口を開いた。
「キャンプ場殺人における容疑者として、あなたを拘束します。」
こうして、私は突然の録画によって、踏切事故の善意の協力者からキャンプ場男性殺害事件の容疑者に変更されてしまった。
車載カメラに見られていた 大都 華信 @350SLK
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