幸せな痛みを帯びる

雨宮 苺香

- Episode -

 はじめて君を好きになったのはいつだったかな。

 私の話を親身になって聞いてくれた時だっけ?

 それとも君が目を細めてクシャっと笑った時?

 明確な〝この時〟っていうのはわからなくて、というか覚えてなくて。

 気づいた時には私の世界は君中心で、それから自然と日常の中で君の姿を探すようになった。

 なんてことないしぐさも私の胸にはくすぐったいものを響かせて、心臓の熱がそのまま顔に移ってくる気がして。あきれるほど君ばかりになって――。


 寝る時に君の顔を浮かべて、今日はこうだったなとか、こんなこと話したかったなとか考える日々も心地よくて、明日はもっと頑張ろうって思えた。


 それが今から半年前の好き。




 それからは、私と君は会えば話す仲になって、その中で君のことを知るたびに具体的な好きが溢れていった。


 君の匂いが好き。

 君の選ぶ言葉が好き。

 君の声が好き。

 君のまとう空気が好き。

 君の優しさが好き。


 挙げればきりがない君の好きなところは私の心を甘酸っぱく飾って、想いが隠せなくなったあの日に思わず「好き」と口にしてしまった。つい、伝えたくなって。

 そして君の秘密ほんしんに触れるたび、私だけじゃないことが嬉しくて永久とわに問いかけるように、君との未来をどうしようもなく想像してしまうのだ。


 ありふれた景色の中に君がいて、君の姿がなくても私の心にはいつも君がいて、だんだんとそれが自然になっていた。


 普通が変わるって素敵なこと。

 君と過ごす日々はずっとドキドキしていて、好きな人と付き合える幸せをただただかみしめていた。

 心がいっぱいになって余裕なんて一切ないけど、それでいいんだって思えるくらい君が好きなんだ。

 どうしようもないくらい笑みが耐えないせいで、ほっぺたはずっと筋肉痛だし。

 ふふ、痛いけど幸せな悩み。

 天秤がつり合ったこの恋で、私も彼も心がひとつで、これ以上の幸せのなんて存在しないんだろうな。



 - END -

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幸せな痛みを帯びる 雨宮 苺香 @ichika__ama

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