第4話 九州で 冷泉宗祇

 九州支部会館の応接に通された四人の前に九州支部長の斉藤陽介さいとうようすけ、副支部長の中山浩二なかやまこうじ、そして黒いスーツに身を包んだ男と美しい着物を着た女性が振り返った。

「九州支部支部長の斉藤です。こっちは副支部長の中山。そして、今日は冷泉宗祇れいぜいそうぎ様と楊鏡妃ようきょうひ様が来られています」

威厳とオーラに包まれた男性はまっすぐ安住を見た。

「急に来てもらってすまなかったね。安住あずみ君。こちらは楊鏡妃ようきょうひさんだ。名前と顔ぐらいは知っていると思うが、会ったことは?」

「はじめまして、安住登也あずみとうやと申します。こちらは太田明美おおたあけみ浅村正男あさむらまさお小林美登里こばやしみどりです。全員、第一支部の者です。」

気品のあるその女性は、高貴な雰囲気を漂わせ、ゆっくりした口調で、

楊鏡妃ようきょうひと申します。安住さんのお名前は存じております。でも、お会いするのは初めてですね。皆さんも、よろしくお願いしましす」

しばらく『会』の最近の話や九州支部の活動の話、世間話などをしたあと冷泉れいぜいが安住に話し始めた。

「ところで急に呼び出したのは、京都に持ち帰ってもらいたいものがあるのです。私たちはこの後、東北支部に出向かなければならない用事がありましてね。ちょっと宅急便で送るという訳にはいかないものでして。それで安住さんたちに持って帰って頂きたい。誰かほかの者というのも考えたのですが、京都総本部の者はこのところ祭事やら何やらで忙しく、九州支部の方も忙しくてなかなかお願いできなかったのです。ちょうど関東支部に行っていらっしゃった、あなた方がそちらの用も終わって京都に帰られると思い。少し遠回りにはなるのですが、こっちに来て、それを運んで頂きたいと思いまして」

「はい、それで私たちは何を持って帰ればいいのでしょう」

「いえね、小さな箱を三つばかり持って帰って頂くのです。四人いらっしゃるようですし、それほど荷物にならないでしょう。京都総本部に帰ったら佐倉というものが受け取ってくれます。こっちへ来たばかりで、とんぼ返りのようになりますが、明日、午前中に京都に向かってもらっていいですか? 新幹線でお帰り下さい」

「明日の午前中ですか?」

それまで黙って聞いていた楊鏡妃ようきょうひが安住たちに優しい口調で言う。

「今日はゆっくり休んでください。明日、運ぶものは大切なものです。くれぐれも失くしたりしないようお願いします。それと、これは絶対に守ってください。箱はきれいに包んでありますし、それをまた持ち運びやすいようにバッグに入れてあります。バッグを開けたり中を見たりしないようにしてください……これは守ってくださいね」

安住たち四人は顔を見合わせる。

「中身は何なんですか?」

安住の質問に、楊鏡妃が優しい口調で続ける。

「祭事で使うものです。神様に捧げる神聖な祭具ですので、箱を開けて中を見るとよくないことが起こります。なので、くれぐれもバッグを開けないようにお願いします」

「わかりました」

「明日、少し早いですが八時にここへバッグを取りに来てください。九時の新幹線で京都に向かって頂きます。お昼には着くでしょう。今日はは博多でゆっくりしていってください」


 冷泉れいぜい楊鏡妃ようきょうひ、九州支部の支部長である斉藤と副支部長の矢田部は行くところがあると席を立った。もう一人の副支部長の中山が博多を案内してくれるという。

 中山は安住たちが泊まるホテルまで会館の車で送ってくれた。会館からホテルまで車で五分くらいだった。

 そして、その晩は博多の街を案内してくれ一緒に食事をすることになった。急に来ることになり、また、明日すぐにとんぼ返りと慌ただしい九州旅行になったが十分満足できる夕食になった。中山も安住たちの事情を察しいろいろと気遣ってくれているようだった。食事のあとホテルまで送ってくれて、

「また明日の朝八時前に迎えに来ますね」

と言われて別れた。会館から新幹線の博多駅まで車で五分くらいらしい。その日はあまりに慌ただしく四人ともホテルの部屋に帰るとすぐに眠ってしまった。

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黒田郡探偵事務所 第六章 天岩戸にて KKモントレイユ @kkworld1983

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