第3話 それは黄泉の国のものたち

 恵庭えにわが不思議そうな顔をして聞く。

「すみません。私、途中から話に入ったもので……ここに保管してあったものは、どこから持って来たのですか?」

恵庭えにわの聞こうとしていることが、葉山はやま、優一、裕美ひろみ圭太けいたの四人にはわからなかった『どこから持って来たものか』は今となってはそれほど大事なことではないように思えた。

「どこから持って来たか……って、やっぱり重要なことなの?」

葉山はやまの質問に対して恵庭えにわが首を振る。

「それは今となっては大事ではないかもね。ここの神社に長い間封印され保管されていたものですものね『どこから持って来たか』より、今重要なことは『どこへ持って行ったか?』かもね」

四人と矢田が目線を交わし頷く。恵庭が続ける。

「そうなのよ『どこから持って来たか』ではなく……」

四人と矢田の目線が恵庭に集中する。


 恵庭えにわが続ける。

「私、なにか恐ろしいものを感じるの。『それ』がここから持ち出されたことで、ここの封印から解放され『それ』が発するものに誰かが気付いたみたい。今までここの封印でわからなかったのに。ここから持ち出してしまったから。その発する『力』に気付いたみたい」

「誰?」

裕美ひろみが聞く。

「たぶん、この世のものではない誰か」

「恵庭が来る前に、矢田さんから『黄泉よみの国』から持ち帰ったものって話を聞いたんだけど、つまり『黄泉の国』とか、そういうこと?」


 裕美の言葉に恵庭の表情が青ざめた。

「黄泉の国?」


 四人と矢田が恵庭の表情と言葉にただならぬ事態が起こっているのを感じ始めた。過去に、どういう経緯で『黄泉の国』から持ち帰ったのか、定かではないが、話の成り行きから、持ち帰ってはいけないものを持ち帰って、こっちの世界で封印していたようだ。『黄泉の国』の者が血眼ちまなこで探していたとしてもおかしくない。

 封印が解け、その『力』が解放され『黄泉の国の者』が、その『力』に気付いた。そうだとしたら、それを持っているものが危ない。


「ねえ、これから、どうなるの?」

裕美の言葉に、恵庭が青ざめながら言う、

「わからない。わからないけど、たぶん、その『もの』と一緒に、それを持っている人は、あちらに連れていかれるんじゃない」

「人も連れていかれるの?」

「『あちら』って『あの世』のことよ。つまり殺されるってこと」

「……」

「だって『あちら』の者たちは、それを奪われて必死で探していたんだよ。どういう経緯で、どこにあったかはともかく、今持っている人が、それの保有者じゃない」

「誰が持っているんだろう? 恵庭、今どこにあるかわかる?」

裕美の問いに、

「それを辿たどることは、できなくはないけど……同じことを『黄泉の国』の者もしてるのよ。ごめんなさい。今回ばかりは一人で辿るのは……怖い……」

うつむく恵庭。


「私が一緒なら大丈夫?」

葉山が恵庭に聞く。

 優一にも今の一連の話で、このミッションが相当危険なことは理解できた。前に優一の部屋でやった『恵庭のテレポーテーション』みたいなことをしようとしているのは容易に理解できた。できれば葉山に付いて行きたいと思った。

「僕も行くよ」

「無理よ」

裕美に一蹴いっしゅうされた。と思うと、裕美が微笑みながら

「ごめん、ごめん、まあ無理というのも……そうなんだけど、こっちで結界張って、帰って来れる様にフォローする人の数も必要なのよ」

「こっちに残るのは、僕と裕美さんと圭太さんですか?」

優一が聞く。裕美が圭太を見て苦笑にがわらいしながら、

「圭太さん……優一君が頼りないって」

「いえ、そんな」

優一が圭太の顔を見て慌てて言う。

「大丈夫よ。優一君。彼。霊寿れいじゅさんの弟子だから」

微笑みながら葉山が言った。

「え? そうだったんですか?」

驚いて圭太の顔を見る優一。

「僕も修業してますよ。大角だいかくさんたちのところで」

優しく微笑む圭太。すると矢田という男性も、

「私もお手伝いしますよ。私も霊寿様の弟子です。あと私の妻も霊寿様の弟子です」

矢田の奥さんが後ろに現れた。

「私も水鏡妃すいきょうひさんと修業したのよ」

これは心強い……優一も裕美もそう思った。恵庭の話から、こっちで結界を張るのが三人では内心不安があった。しかし、霊寿の下で修業をした者が、矢田、矢田の奥さん、圭太、優一、裕美と五人もいれば葉山と恵庭の二人を守ることはできると思った。


「それを持ち出した者のところへ行くのね」

恵庭と葉山が目を合わせる。

「追いかけてくるものは……」

「黄泉の国のもの……」

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