筋肉に目覚めし友

久河央理

第1話 筋肉は陰を克服する?

 久々に会った友人が筋肉に目覚めていたら、どう思うだろうか。


 健康になったようでよかった?

 たくましくなりすぎてビックリ?


 ごく普通の友人だったら、そういう反応ができたかもしれない。



 だが、アイツは違った。



 アニメやゲームが好きで、眩しい世界が苦手で、いわゆる陰キャオタクの類い。たぶん、ずっと変わらないだろうとまで思わせてきたアイツが、よもや――。


「筋肉は全てを解決するんだよ、マッスル殿!」


「う、うるせー! つかなに、マッスル殿? それ、俺!?」


 聞くと、筋トレを題材にしたアニメを見て興味を持ち、僕の世界はここにあったのか! と衝撃の出会いをしたらしい。昔同様、オタクらしい早口で素晴らしき出会いを語られた。


「もちろん。我が最高の友人、増田氏のいいあだ名を思いついて」


「ない。ないから」


「じゃあ、コンビ名ならどう? 僕の苗字『駿河』と合体したらいい感じにマッスル!」


「いいもんか! こんなカップリング名は嫌だ、だぞ!」


「なんと、カップリング名とな! そう来たか!」


 戸惑う俺を置き去りに、駿河はガッツポーズをする。


「よし、同窓会に向けて準備だな! アニメ好きマッスルコンビとして、演目を披露したら、いい感じに盛り上がるはずだよ!」


 手を掴まれて、上下に振られる。たいして込めてなさそうなのに、想定の五倍強い力を感じた。


「いや、俺違うし。つか、前は同窓会なんて行くもんかって……」


「え、絶対楽しいよ?」


「うぬぁぁ」


 効果は抜群だ。永遠に仲間だと思っていたのに。


「なあ、駿河さ。今も見てんの、アニメ」


「ん? 当然見てるけど、なぜに?」


「卒業したのかなって」


「筋肉とアニメは喧嘩なぞしないでしょ。どっちも最高で好きだし、卒業とかなくない?」


「ならよかったよ」


 まあ、苦手な表の世界も陽キャも恥も克服したのだから、筋肉の凄さは十分に頷ける。

 だが、なんか負けなような気がして、認めたくはなかった。

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筋肉に目覚めし友 久河央理 @kugarenma

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