第十四話:歓迎会



              ※※ 21 ※※



 「わたしは作戦参謀を務めます、ニジョウ・アヤノ。あなた、RS-7宙域ポイントの英雄とか言われてるらしいけど、ここでは関係ないわ。まあ、わたしの足を引っ張らないよう気を付けてちょうだい」


 今のあたしは、よほど無愛想に違いない。憮然ぶぜんと立つあたしの返答を待つことなく、立ち上がり颯爽さっそうと出て行ってしまった。その後を追うように、すれ違いざま、「あたしは後方参謀のリゼット・シードル。……まあ、宜しく」と言って去っていく。結局、あたしとルイちゃんが取り残された。


「あはは。相変わらずのお二人さんだねェ~」


 バツの悪い表情で、乾いた笑みをこぼすルイちゃん。あの二人、ルイちゃんに対しても同じ態度なのだろうか? 少なくともルイちゃん本人は気にしてない様子だ。


「とりあえず、サユリちゃんの荷物置いてさ、出かけようか? その前にちょっと準備してくるから待ってて」


 そして、ルイちゃんは部屋から出て行った。本当に、この場に取り残されたあたしは、一人無駄な疲労感でぐったり肩を落とした。


 だいたい五分後、白地のジャケットに同じく白地のタイトスカート、紺のニーソックスは少々幼さが目立つが、右袖の山形善行章。その下の黒地に横金線三本、錨と柏葉の意匠である階級章が凛々しさをかもし出す、所謂いわゆる下士官制服で現れた。


「ルイちゃん、わざわざ軍服に着替えたの? これから行くとこって司令本部?」

「まあまあ、ここはあたくしにお任せあれって、ね」


 嬉々として歩くルイちゃんに追従しながら、到着した場所は、なんてことない普通のチェーン居酒屋だった。


「……ここに入るの? だったら、むしろ私服の方が良かったんじゃ?」


 ちなみに、あたしは大学時代、合コンや飲み会には何故かお誘いが掛からず、今この瞬間が居酒屋デビューである。まあ、お酒はそれなりにたしなんでるが、全て宅みだ。


「それはね、あたしたちの相貌そうぼうよ。だって見た目思いっきり未成年じゃん。軍服の理由も入ればわかるわ」


 ルイちゃんは引き戸を開けて軽やかに入っていく。奥から元気いっぱいの「いらっしゃいませー」が響いた。そして店員さんが現れると、あたしたちを見て、ぎょっとする。ルイちゃんは慣れているのだろう、軍籍証明証を提示する。店員が年齢を確認するとうなずき、今度はあたしを見た。


「ほら、サユリちゃんも」

「あ、そうか」


 あたしも軍籍証明証を提示した。年齢を確認すると店員は、


「二名様ァ、ご案内ィー!」


 と、奥に向かって叫ぶ。テーブルに誘導されたあたしたちが座ると、ルイちゃんは「とりあえず、生ふたつ」と注文していた。座って、あたしは、おしぼりで手を拭きながら


「なるほど、年齢確認ね……。だったら軍籍証明証だけで良くない?」

「サユリちゃん、合法ロリって知ってる?」


 ルイちゃんが、急に変なことを言う。あたしは頬と瞼を赤らめ狼狽ろうばいする。その態度を見たルイちゃんがくすりと笑ったとき、


「よー、お嬢ちゃんたち。二人で呑んでるの? お兄ちゃんたちと一緒に楽しもうよォ」

「そうそう、こんなちっちゃくて可愛い子たち、ほっとけないよなァ? 俺たちも二人で丁度いいじゃん」

 

 二人の男が声を掛けてきた。そして卑猥な目線であたしたちを凝視した途端、二人の男は直立不動になって敬礼する。


「失礼しましたァッ!」


 綺麗にきびすを返し、去っていく。去り際の「おい、将校ナンパしてどうするんだよ? しかも参謀飾緒しょくちょ吊ってたぜ? あれ、絶対やべーよォ」「お前こそ、もう一人の子だって上等兵曹だぜ? ちゃんと確認してから声掛けろよォ」とささやきがれまくっていた。


 あたしは椿事ちんじ呆気あっけに取られ、ルイちゃんは片目をつむる。


「ね? これが軍服の理由。一般人は怖がって声掛けてこないし、下士官や士官はナンパなんて、風聞に関わるから、基地外シャバではあまりやらないわね。やるとしたら、さっきの奴らみたく兵卒よ」

「はあ……」


 あたしは、素直に驚嘆きょうたんしたところで、店員は生ビールをジョッキで二杯持ってきた。後は適当に食べ物を注文して、ルイちゃんがジョッキを上げる。あたしも同様、ルイちゃんのそれと突き合わせる。カチンと軽やかな、小気味良い音を聞く。


「じゃあ、サユリちゃん。第九独立分遣艦隊へようこそォ! 歓迎するわ」

「ありがとう、ルイちゃん」


 あたしは、よく冷えた琥珀色の液体を飲み、久々に爽快な気分を味わった。

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殲滅のソティス~新米の宇宙艦隊参謀は戦局不利な最前線でいつも大変~ 武田 信頼 @wutian06

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