第十三話:シリウス星系とグルーンエルデ、そしてソティス人



              ※※ 13 ※※




 太陽系より、約8.7光年に位置するシリウス星系は、射手腕の切れ目から銀河系外縁部……ペルセウス腕にかけて展開する外周方面軍にとって、最も重要な戦略拠点の一つである。

 そして、それは敵にとっても同様らしく、数年前の戦争勃発と同時に真っ先におとされた場所でもある。 さらに言うなら、ここの宙域は少々やっかいに出来ている。ブチ切れた射手腕の破片が集まって出来たサルガッソーの散在地帯やら、宇宙潮流やらで、とにかく航行に支障を来す箇所が所狭しをめられている「魔の暗礁宙域」なのだ。

 だから、艦隊や船団が体形を組んで通行できる航路はおのずと固定化する。そういう意味では、シリウス星系で戦闘を行う場合、常に銀河中心部方面から侵攻してくる敵は、当然「魔の暗礁宙域」を越えなくてはならないから、地球連合宇宙軍にとって守りやすい場所と言えたのだ。

 ちなみに、ここを通らず太陽系をおとそうとすると、銀河系外縁部を大きく迂回うかいするしかない。となると、せっかく手に入れたシリウス星系に前衛基地として、要塞を建造しても不思議ではない。

 シリウス星系は、星系一小さくて重い白色矮星シリウスB、通称「ディジタリア」が描く楕円軌道の焦点のひとつとする恒星「シリウス」のほか、赤色矮星シリウスC「エンメ・ヤ」を含む多恒星天体である。

 加えて「シリウス」「エンメ・ヤ」と「ディジタリア」は軌道平面のが直角になるような位置関係にある。そして「エンメ・ヤ」には惑星「ニャントロ」惑星「エネギリン」、そして有人惑星「グリューン・エルデ」がまわり、さらに原始惑星の死骸でもある小惑星帯が広範囲に公転している。

 U.C.(宇宙歴)0203年から23年間、打ち立てられた第二次クセノパネス計画で人類は、有史以来、初の太陽系外移民となる。しかし、テラフォーミングが成功したとはいえ、環境も、風土もまるで地球とは異なる。やがて、地球の三倍以上もある公転軌道と一日が30時間ほどある自転速度も含め、地球人とは一線を画す人類となってしまった。

 つまり、地球人と比し、身体の成長速度の遅さ、そして圧倒的に長い寿命。いつの間にか「グリューン・エルデ」に住む人類を「ソティス人」と呼ぶようになった。あたしが、見た目は地球の中学生の身体だが、年齢は地球計算で22歳という所以である。




 ルイちゃんは、あたしの手を取り、奥の部屋へ誘う。そこはリビングのような場所であり、二人の女性士官が待機していた。二人の表情は歓待の二文字が感じられない、一人は困惑しながら乾いた笑い。もう一人は露骨に嫌悪感を見せている。


「地球は、貴方たちソティス人が住んでいい場所ではないわ。せめて月面とか、宇宙コロニーとかなら、許してあげようものだけど、地球まで降りてくるなんて図々しにもほどがあるわ」


 あたしは地球人の罵倒には慣れている。在学中から言われ続けていたからだ。宇宙軍に入ってからも同様、そして。


(ここでも、やっぱり嫌われるのね……)


 心の中で、大きく嘆息するのだった。

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