第十二話:新任地
※※ 12 ※※
その足で、軍病院にヒクマ提督とトクノ参謀長のお見舞いに行ったあたしとマナ中佐は、両人がすこぶる元気そうなので胸を
その翌日、金筋一本に
新しい中尉の階級章を付け、参謀
第九独立分遣艦隊司令部のオフィスがどこを探しても見当たらないのだ。
外周方面軍管区のオフィスを
いすれにしろ、あたしは納得の出来ぬまま、一抹の不安を抱きつつも、とにかく司令部があるという横須賀基地へ向かうべく、機上の人となった。
万華鏡のように輝くマリンブルーの東京湾を眺めるのもつかの間、定期便の輸送機が有視界飛行状態の横須賀基地に緩やかに
「あちぃー」
空調の効いた機内から、滑走路に降り立ったあたしは、エンジン熱と日差しで焼けたアスファルトの上で
その軍人は、よっぽど暑いのか、上着はTシャツ一枚に宇宙軍のスラックス。見るからに貧相でだらしない中年士官風だった。階級や所属はわからない。頼りなさそうだけど、一応聞くだけ聞いてみるか。
「あのぉ……」
「はあ、何か?」
男はあたしに視線を向ける。
「あのぉ、貴官は第九独立分遣艦隊の司令部が何処にあるのか、ご存知ですか?」
「……?」
男は眼をパチクリさせる。
「あ、あの……、第九……」
「あ~、あ~」
突然、あたしの言葉を
「久しぶりに真っ当な名前を聞いたから何処のことかと思ったよ。ははは、ついておいで、案内するから」
男は嬉しそうに口笛を吹きながら歩き出した。あたしは一瞬、あっけに取られてしまったが、見失わないよう急いで追いかける。
「あ、あの、ここに来るまでの間、色々な人に
男に並んで歩くと、今まで一番疑問だったことを聞いてみた。何となくだけど、この中年士官なら知っていそうな気がしたからなのね。しかし、あたしの質問が聞こえなかったのか、それともわざと無視したのか、どちらでも取れるような、にこやかな笑顔で前方を指差した。
「あれが司令部だよ」
その指先には築何十年なのか分からないほど、おんぼろな二階建て木造建築物。艦隊名が書かれたプレートもなく、一見ただの倉庫にしか見えない。ただ、玄関先に立っている前時代の遺物と言うべき
(……へ? ここがホントに司令部!?)
呆然と眺めているあたしを男は全く意に介せず、陽気に玄関をカラカラと開ける。
「ただいまー」
男は軽やかな声で帰宅を告げると、あたしの方へ振り向き手招きをした。
「司令部に用があるんでしょ。入りなよ」
ショックなあまり、
「提督ぅ~、遅いよぅ……。ルイ、三十分も待ったんだよォ」
「ごめん、ごめん」
女の子は男の腕に
(……ええ、と。今、この子、『提督』って言わなかった?)
「はれぇ~、このお姉さん、お客さん?」
その
「外周方面軍、第九独立分遣艦隊情報参謀、および艦隊司令官副官を拝命しました、トウノ・サユリ中尉であります」
「報告、ご苦労様。僕が司令官のクサカ・ショウゴだ。で……」
提督は密着している女の子の頭をなでる。
「あたしはぁ、クサカ・ルイっていいま~す。司令官付従卒です。階級は上等兵曹でぇ~す」
彼女は、あたしの腕を取って、ぶんぶんっと振り回し、ニパっと笑顔を見せた。
「こう見えても、一応
しかし見た目は十二歳前後の少女にしか見えない。
(……と、ということは、まさか?)
言葉を探しながら見つからず、直言する。
「ええと……グリューンエルデの方ですか?」
二人の顔が瞬間、
「すいません。あたしもグリューンエルデ出身です。見た目はよく中学生と間違われますが、新東大文科Ⅲ類出身で動員将校の二十二歳です」
あたしは、ははは……と作り笑いをした。
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