後編 『有隣堂』がデスゲーム会場になった唯一の理由

「台東さん、実は『有隣堂しか知らない世界』を観たことないんじゃないの?」

「いやめっちゃ観てますよ。有隣堂の新入社員ぐらい観てます」

「それ4,5本しか観てないやつじゃないすか。作業の裏でBGMとして流してるやつじゃないすか」

「有隣堂の新入社員の世界の回、好きなんですよね」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪



「ちなみに台東さん、台東区に有隣堂を作るとして、なんか理想の有隣堂像みたいなのってあるんすか?」

「僕の作品を千冊ぐらい入荷して欲しいですね。作品でタワーとか作って欲しい」

「要求が強欲。無名の作家の本をたくさん入荷するのは難しいと思いますけどね」

「そうですよね……。実はもう一つ要望があるんですけど」

「あ、それ知ってる。最初に大きな要求をして断られてから小さな要求通すやつでしょ? 流石小説家は小賢しいなあ」


 流石はリアル・ブック(真の知)ブッコロー、博識だった。

 過大な要求をして相手に断られた後に、本命の小さな要求を受け入れてもらうテクニックのことをドア・イン・ザ・フェイスという。

 僕は本命の小さな要求を話す。


「有隣堂の入り口を、デスゲーム会場にして欲しいなって」

「もっと大きい要求来ちゃったな」


 ブッコローが困惑する。


「え? 有隣堂の入り口をデスゲーム会場にするって、どういうモチベーションなんすか?」

「ほら、台東クロウは無名だから、たぶん一冊ぐらいしか有隣堂は入荷してくれないと思うんですよね」

「ネガティブだなあ」

「そうすると、その一冊を巡って、お客様同士の争い、流血沙汰が起こりますよね?」

「やっぱりポジティブなのか?」


 僕は力説する。


「そこでデスゲーム会場です。誰が本を手に入れるか、お客様にはデスゲームで決着をつけてもらいましょう」

「発想ヤバ」

「悪質なクレーマーとかも放り込めるから、あると便利ですよ、デスゲーム会場」

「ちょっと欲しがる社員いそう」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪



「それじゃあ、有隣堂に電話をかけて、台東区に有隣堂作ってもらいますね。僕はちょっと電話だとテンション上がるタイプなのですが気にしないでください」

「ああはい、そういう人たまにいますよね」


 スマホを取り出して有隣堂に電話をかける。


「イーヒッヒッヒッヒ! 有隣堂さんですかぁ? オタクの可愛い可愛いブッコローちゃんはワタシが預かってますよぉぉぉぉ!」

「思ってたよりもテンション上がっちゃったな」

「ブッコローちゃんを焼き鳥にされたくなかったら、大人しく台東区に有隣堂を作ることですねぇぇぇ! えっ? 別にどうでもいい? ブッコローの代わりに白いトリをマスコットにする?」

「あれ? もしかして私、見捨てられてる? そしてカクヨムのトリにポジションが奪われようとしている?」

「あ、電話切れた! 上等だ! こうなったら全面戦争ですよ! ブッコローさん、一緒に有隣堂と戦って下剋上しましょう!」

「私、どの立場で戦えばいいんすかね?」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪



「ふう、激戦でしたが、どうにか有隣堂に台東区の支店を作らせることができましたね」

「有隣堂との戦いの途中で異世界に転移した時はどうなることかと思ったなあ」

「ブッコローさん、異世界でモテすぎてハーレムっぽくなってましたよね。もはやラブコメでしたよ」

「それ妻には言わないでくださいね? まあ結局最後は現代に戻ってきちゃいましたけどね。いやあ、親指立てて溶鉱炉に沈んでいったザキさんが、実は生きていて最後の戦いで加勢に来てくれた時は熱かったなあ」

「まさかカクヨムのトリが黒幕だったとは思いませんでしたね」


 戦いの思い出を語りながら、僕たちは上野に来ていた。

 スタイリッシュな大型デパートに二人して入る。


「上野は東京東部の最大級のターミナルエリアですからね。上野マ○イに新規出店するのは正解ですよ。便利で文化的な魅力がある上野エリアで多くの方にお応えできるような本や雑貨が展開されていくと思うと、心が踊りますね」


 ※この物語はフィクションです。実在の人物・事件とは一切関係ありません。しかし、2023年4月27日(木) に有隣堂が「上野マ○イ」地下1階フロアに新規店舗を出店するのだけは本当です。行こう! 台東区の有隣堂!


「でもこんな良いところに新店舗出しても結局本って売れないからね」

「売れますよ! 何言ってるんですか!」


 ブッコローの辛口な意見に憤りながら、僕は地下1階に降りて、そこでガシャンと音が鳴った。

 振り返ると、いつの間にか入り口には鉄格子のようなものが下りていて僕は閉じ込めれていた。

 ブッコローは檻の外にいる。


「あの、ブッコローさん、これは一体?」

「やだなあ、台東さん、ご自分の発言の責任は取ってもらわないと」


 僕は自分の発言を思い返した。


 ”悪質なクレーマーとかも放り込めるから、あると便利ですよ、デスゲーム会場”


「あ、ちょっと待って、このままデスゲームに巻き込まれる流れですか!?」


 慌てて檻を叩くが、びくともしない。ブッコローはニタリと笑う。


「台東さんの作品、入荷したんですけど、全然売れてないんですよねえ。もっと売れたら、解放して差し上げますよ」

「そ、そんな……。嫌だ、ここから出してくれ!」


 懇願する僕を気にすることなく、ブッコローは去っていった。

 扉が閉じて、僕は暗闇の中で悲鳴を上げながら、あの音を聞く。



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『有隣堂』がデスゲーム会場になった唯一の理由 台東クロウ @natu_0710

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ