『有隣堂』がデスゲーム会場になった唯一の理由

台東クロウ

前編 『ブッコロー』が拉致された唯一の理由

 ※この物語はフィクションです。実在の人物・事件とは一切関係ありません


 僕の目の前で、オレンジ色のフクロウが眠っていた。

 体長は60cmほど、カラフルな羽角が可愛らしい。

 フクロウの名を、R.B.ブッコローと言う。有隣堂を支える謎多きMCだ。


 やがてブッコローが目を覚ます。


「うん……ここは?」


 ブッコローは大きな目でギョロギョロと狭い部屋を見回す。すると、僕と目が合った。


 人と話すのは緊張する。まあ鳥なんだけど。

 とにかく、怖がらせるのは本意ではない。僕はオドオドと自己紹介を始めた。


「あ、あの、はい、僕は台東クロウと申します。あの、全然、全然、怪しい者では無いです」

「ああ、台東さんね。これはどうもご丁寧に。ところで、ここ、どこなんすか?」

「すみません、場所はちょっと言えないんです。あの、あのですね、驚かないで欲しいんですけど」


 ブッコローを驚かせないように、一呼吸の間を置く。


「ブッコローさんを拉致させて頂きました」

「それは充分怪しい者なんだわ!」


 僕の発言を聞いて、ブッコローが大きく跳ねる。

 気を使ったつもりだが、驚かせてしまったようだった。弁明しなくてはならない。


「あ、あの、拉致と言っても、全然危なくないやつなんで」

「危なくない誘拐とかあるんだ」

「はい、あるんです。その、ブッコローさんを人質にして、有隣堂への要求が通れば、すぐにお帰ししますので」

「物腰が低いのにスゴいこと言うなあオイ」


 ブッコローは呆れたように仰け反った。羽角が可愛く揺れる。


「それで、台東さんは、有隣堂にいくらぐらい要求するつもりなんすか? 競馬? 競馬にハマって金に困ってるんでしょ?」

「ああいや、全然そんな、お金じゃないんです。違うことを要求するつもりです」


 お金のためにブッコローを誘拐したと思われるのは不本意だった。それでは犯罪者だ。

 僕はブッコローに目的を話す。


「台東区に、有隣堂の新店舗を作っていただこうと思いまして」

「今なんて?」


 僕はちょっとボソボソと話す悪癖がある。聞こえなかったのかな?


「台東区に、有隣堂の新店舗を作っていただこうと思いまして」

「いや聞こえてるんすわ。だいたい既にあるでしょ、秋葉原のヨド○シとかに」

「あそこは千代田区なんですよ。それに閉店しちゃったじゃないですか!」


 話しているうちに、徐々に僕の言葉に熱がこもってくる。


「僕、『有隣堂しか知らない世界』のファンなんですよ。だから台東区にも有隣堂が是非欲しいなって。そこでブッコローさんを人質にして、新店舗を作ってもらうことにしました」

「間違った行動力がスゴいなー。あとどんだけ台東区好きなんすか」


 僕は照れながら頭をかく。


「いやー好きってほどじゃないですけど、筆名を台東クロウにしているぐらいですからね」

「あ、台東クロウさんって筆名なんすね?」

「はい」

「その筆名で本も出していらっしゃる?」

「はい」

「限界集落の村とかじゃなくて、東京都の区にそんな愛着持つことあるんだ」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪



 突然、音が部屋に響いた。ブッコローがビクッとしてあたりを見回す。


「今『有隣堂しか知らない世界』のアイキャッチの時のアレ、流れませんでした?」

「有隣堂の二次創作小説ですからね。当然のことです」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪



「じゃあ話戻しますけど、実際問題、いけると思ってるんすか? 私を人質に取っても、有隣堂は新店舗作ってくれないと思うけどなあ。赤字企業なんで新店舗出ないっすよ」

「いや、いけますよ。僕はブッコローさんのファンなんですけど、ブッコローさんは有隣堂に欠かせない人材、否、鳥材です。社長さんも多分、”うーん、ブッコローちゃんが人質に取られたなら、新店舗、作るしかないかなあ”って言いますよ」

「えー、グイグイ持ち上げてくるじゃないすか。言ってよー、ブッコロのファンだったなら先に言ってよー」


 ブッコロは満更でもなさそうに揺れる。


「じゃあさ、ブッコローのファンってことは、私の名前の由来とかも知ってるんだ?」


 僕は自信満々に頷いた。


「”ぶっ殺”とフクロウをかけて、ブッコローですよね?」

「ブック+オウルでブッコローなんだわ。あとフクロウじゃなくてミミズクなんだわ。一個も合ってないんだわ」

「リアルで・ぶっ殺す・ブッコローでR.B.ブッコローですよね?」

「リアル・ブック・ブッコローなんだわ。リアルしか合ってないんだわ」



 ♪♪♪ テテテテッテ ♪♪♪

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