決勝 4

 閉会式で、俺は銀メダルと表彰状を授与された。女子の部で優勝した彩夏は、表彰台の上の表情は固かったけれど、式の後で俺がメダルよく似合ってるとか、煉瓦珈琲であかりと楽しんでこいよなどとおちゃらけると、くすりと笑ったりしていた。

 俺に気を遣わなくていいと、わかってもらえただろうか。せっかく優勝したのに水を差したみたいなのが、俺にとっても後ろめたいし。

 そして、義友から今日の試合の講評を受けて、解散になる。

 保護者に車に乗せられて帰っていく友達と別れ、俺は颯と一緒に、あかりと合流していた。三人で駅に歩いていく。銀メダルはいったんケースの中に入れて、リュックの中に入れ、表彰状は颯に預けていた。

 もう、完全に日が暮れていた。空は西のほうがわずかに茜色を帯びているくらいで、星も輝き始めているし、道路を走る車はライトを点灯させている。

 何より、寒い。

「今日の爽太、すごかったよ」

 あかりは隣を歩きながら微笑んでくる。

「そのセリフ、もう聞き飽きたよ。負けたのを慰めてるの?」

 また、意地っ張りなことを言ってしまった。

「そんなんじゃない」

 あかりはそう、はっきりと言ってくる。

「本当に強かったもの。今日、一日かけて応援してよかった」

「あの約束、だめにしたのに?」

 颯にあかりのことが好きだと言わせる作戦は、ごくわずかな差でだめになってしまった。

 最後の最後で台無しにして、みっともない。

 だが……

「次の大会で優勝すればいいんじゃない?」

 あかりは次を期待してくれていた。

 俺がじいさんの言うとおりにしていたら、聞けなかった言葉だ。

 やりきったけれど胸の中に残っていた重たいものが、一気にどこかに飛んでいく。

「あはは、そうだな。六年生になってから大会で忙しくなるし」

 俺は大笑いしながら、ばんばんと颯の腰を叩く。

「どうして俺を叩くんだよ」

「だってあかりがこんなこと言ってるんだぜ。あーおかしい」

 笑うのをこらえられない。

「そんなに笑われると気味が悪いんだが」

 兄さん、嘘をつくな。

 俺が叩くのを止めないくせに。兄さんだって、ちょっと笑っているくせに。

「今日はだめだったけど、次があるんだ。また同じ約束、してもらうからな」

「同じって、まさか」

「ああ。春の大会で優勝したら、あかりに好きって言ってもらう。もちろん、勝手に言ってもらってもいいけどな」

 もう、今日みたいなへまはしない。

「ほんとに健気ね」

「好きにしろ」

 二人の声が重なっている。

「でも、今日はもう疲れた」

 打たれた右腕の痛みは完全に引いたけれど、一日中試合をしてきたせいで体が重たい。

 才治と綾乃は夕飯の支度があるからと、先に家に帰っている。俺と颯が家に着く頃には、夕飯はできあがっているだろう。

 さあ帰ろう。

 帰って、本当の母さんの写真に準優勝したことを伝えて、もらった銀メダルと表彰状を見せるのだ。そしてご飯を食べて寝る。

 駅までの道を、俺は二人よりも少し先に歩く。

「爽太、先々行き過ぎるな」

「だって早く帰りたいし」

 言いながら、俺は後ろを振り返る。

 俺が真ん中から抜けたせいで、颯とあかりは隣同士で歩いている格好だ。もちろん、二人の間はそのままで、恋人同士というには不自然な距離がある。

 でも、お似合いだな。

 もっと近づけさせたいくらいに。

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憧れの先輩に告白して振られた。先輩の弟に俺と付き合ってよと言われた。 雄哉 @mizukihaizawa

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