こんなカウンセラーは嫌だ

薮坂

コント?「カウンセラー」


「もうダメだ……。仕事で大損失出すし、結婚したかった彼女にはフラれるし、俺なんて生きてる価値がないんだ……。彼女にプロポーズして派手に振られたこの港で身投げするしかない……ハハハ、ハハ……」


「──Hey, you!! Wait wait, waaaaait!!」


「やめろっ、放してくれ! 俺はここで死にたいんだ!」


「ヘイ、チョト待って下サイ! アナタ、ここで死のうとしてマスか⁉︎」


「誰だよあんた! って外国の人……?」


「アナタ、こんなトコで死ぬのオカシイよ! ダイタイ、ソレで死ねるとホント思ってマスか⁉︎」


「う、うるさいな! 関係ないだろあんたに! 俺はこの海に沈んで死にたいんだよ!」


「だから足りナイと言っテル! コレ! 貸してアゲるカラ! It's weight!!」


「……おもり⁉︎ 待て、じゃなくて錘の方のウエイト⁉︎ つーかバーベルのアレじゃんこれ! 重! めちゃくちゃ重ッ‼︎」


「ソーデス、錘デス。ソレ抱えて飛べば、確実に死ねル! It's positive sinking!! Yeah!!」


「ポジティブシンキングって沈む方じゃねーか! イェー! じゃねーよ! テンション上がってんな! ハイタッチ求めんなよ何しに来たんだあんた!」


「ワタシ、ココで海見てタ。海スゲー好き。そしたらアナタここで死ににキタ。スゲージャマ。You jammer」


「ジャマー! いやそっちの、ってどっちもほとんど同じ意味か! 言語って不思議!」


「ンー? チョト何言ってるかわかんナイ。まぁイイ、ソレ、ワタシのとっておきネ! 小さいけど密度高い、だからスゲー重い。ソレ抱えてすぐ溺死ネ!」


「あ、ありがとう……?」


「あとでチャーンと返してヨ!」


「いや無理だよ! 今から死ぬんだから!」


「ジャア貸さナイ。ジブンで死ネ!」


「片手でバーベル掴んですげぇな! どんだけ筋肉あんだよ! え、プロの重量挙げ選手とか?」


「違うチガウ、ワタシ、ただのカウンセラー。死にタイとか、消えタイとか、生きてても意味ナイとか、そんなコト思ってる人を助けてマス」


「偶然がすぎる! ていうか筋肉の意味よ! カウンセラーなのに何でそんなに屈強なのよ!」


「ンー? カウンセラーだから鍛えテル。アナタ、ヒ弱なカウンセラーと、マッシヴで屈強なカウンセラー、どっち信用できマスか?」


「きっと世の中の大多数が一度も考えたことない二択だな!」


「同じスキルのカウンセラーなら、マッシヴな方が絶対イイ。コレ、間違いないデショ? だってツエーんダヨ⁉︎」


「ま、まぁそうなのかな。ちょっとよくわからないけど」


「これもナニかのエン。話してごらん、アナタの悩み。バルクでもいいからサ!」


「いや軽くだろそれ言うなら!」


「ンー? 軽いのよくナイ。重い、コレ正義ネ」


「基準がおかしいから! まぁいいや、そうだなコレで最後だしな。ちょっと話聞いてよ」


「イイヨ! ソコのベンチプレスで話ソー!」


「ベンチプレスじゃねーよ、ベンチだろ! でも肝心のベンチがねーじゃねーかよ!」


「ジャアそこで座っタリ立っタリしながら話ソー!」


「スクワットだろそれ! なんで鍛えようとすんだよ!」


「この格言知らナイ? 時はキンナリー」


「キンじゃなくてカネな! あと漢字か違うよな、そもそも! ていうかちょいちょい挟んでくるなよ、筋肉関係を!」


「ンー? 挟んでほしいノ? ワタシの大胸筋、スゲーヨ? みんな息できナクなって、ワタシの大胸筋で溺死ヨ?」


「さっきからパワーワードがすぎるんだよ! あんたカウンセラーだろ? まずは俺の話を聞いてくれよ!」


「聞かなくてもワカル。くそニートで、女の子とも話したこともナイ、カス以下のゴミムシみたいな存在。だから死のうと思っテル。ドーセそんなトコデショ?」


「そこまでは酷くねーよ! 死のうとは思ってるけどさ!」


「その理由、カンタン。アナタ筋肉ナイ。That's all」


「そこ⁉︎」


「ソレダケヨ。イイ機会だカラ、ひとつワタシたちの界隈の格言を教えてアゲよう。MSE理論って知ってるカイ?」


「MSE理論? いや何それ、聞いたことないんだけど」


「──Muscle solves everything. つまり『筋肉は全てを解決する』という理論ネ!」


「そんな理論あるか‼︎」


「イーヤ、これは真実ヨ。筋肉あれば何でもデキる! 仕事? デキる! 彼女? デキる! 満足に死ぬことだって、デキる‼︎」


「え、最終的には死ぬの⁉︎」


「人間、最後に行き着くトコロみんな同じ。死んで土に還る。デモネ、考えてミテ。鍛え上げた筋肉で死ぬのと、ヒ弱なカラダで死ぬの、ドッチが満足な人生?」


「いやそれは人によるんじゃ……」


「ノンノン、それは弱者の考えネ。鍛えるメリットたくさん、でもデメリットひとつもナイ。例えば異世界転移してミロ⁉︎ ヒ弱なカラダで次の世界生き抜けル⁉︎ モンスターでるヨ⁉︎ マッシヴなオークとかイルヨ⁉︎」


「ピンポイントな例えだな! いやでもチート貰えたりとかするじゃんか!」


「チートデイ? Hahaha, ソレ頑張って鍛えてる人だけに許された権利ネ!」


「そのチートじゃねーよ! あるだろ、異世界モノにはつきもののさぁ! 凄いチカラ貰えたりのアレだよ!」


「それもナイナイ。チートデイと同じネ。現世で頑張ってないヤツが、来世でチート貰えるとかありえナイ。鍛えてる人だけが貰エル、ジャナイト不公平ネ」


「いやでもさ、みんな辛いんだよ現実が。だから次の世界に夢見るんだろ? 夢くらい見たっていいじゃないか!」


「甘イ甘イ、甘すぎてマルデ質の悪いプロテインだナァ! イイ? よく聞けゴミムシ!」


「ゴミムシ⁉︎ どストレートな悪口だな!」


「悔しかっタラ、ジブンを鍛えろ。オマエに出来ること、ソレダケ。ただ黙って手と脚を動かセ。疲れたらカラダ休ませて、栄養取っタラまた続ケル。続けていればイツカ、上がらなかったウエイトが上がる瞬間が来ル。その瞬間マデ、ただ続けるダケ。誰にだってデキる。ソーダロ?」


「いやでもさ、その『続ける』が難しいんだろ……」


「オマエ、今まで息し続けてきたダロ? 生まれてからズット!」


「え? 息? そりゃそうだろ、そうしないと生きられないんだから」


「それと同ジネ。ダカラ誰だってデキる。続けていれば必ずイツカ、究極のインナーマッスルに辿り着くのサ。ワタシみたいにナ!」


「究極の、インナーマッスル……?」


「そうヨ、inner muscle! つまり脳ミソまでもが筋肉ってコトネ‼︎」


「ガッチガチのガチ脳筋かよ⁉︎」


「脳まで筋肉になっテ、日本語もこんなカンジにナッタ。元は日本人ダケド、後悔はしていナイ」


「日本人だったの⁉︎ いや後悔しろよそこはさぁ!」


「鍛えてきた事実はジブンを裏切らナイ。ワタシは強い。ソレでイイ。オマエは、そのままでイイのか?」


「いやそれは……」


「最後にコレをヤル。ワタシ特注のバーベルヨ?」


「さっきのより重いッ! なんだこの重さは!」


「受け取ったコノ瞬間、ゴミムシだったオマエは死んダ。死ネテよかったナ? ここで死にタイって言ってたモンナ?」


「な、なに笑って、」


「たった今、オマエは生まれ変わっタンダ。これからは究極のインナーマッスルを目指すんダゾ。肉と野菜、食事のバランスには気をつけテナ。では、サラダバー」



「……何だったんだ、アイツ。このバーベル、マジクソ重い。まるでアイツの思い、みたいだな……」




■──■

\ ◯ /   

  申

  /\




(──あれから5年、か。長かったような、短かったような。それでも師匠と出会わなければ、俺は生きたまま死んでただろう。この港に来ると思い出すな、名前も知らない師匠との出会いを。ん? あれは……?)



「もうダメだ……。仕事はクビになるし、告白した女の子にはフラれるし、俺は何をしたってダメなんだ。もう死ぬしかないな……ハハハ、ハハ……」


(今にも死のうとする彼はかつての俺、か……。ふっ、ならば俺が取るべき行動はただひとつ!)


「ヘイヘイヘイ、チョト待って下サイ! アナタ、ここで死のうとしてマスか⁉︎」


「誰だよあんた! って外国の人……?」


「ワタシはマッスル・カウンセラー! 悩めるアナタを殺しに来まシタ!」


「──いやなんで⁉︎」





【終】

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こんなカウンセラーは嫌だ 薮坂 @yabusaka

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