マッスルナイト・ガールズトーク

クマ将軍

第264回推し団長の筋肉談義大会開幕

 セインシエル王国には全国で百店舗以上展開されている有名なカフェがある。


 喫茶シエルラ。

 その有名なカフェの更に奥。

 普段は要人の密談に使われる部屋で、七人の女騎士がいた。


「では、私から行きましょう……」


 そう宣言するのは神秘的で有名な月曜騎士団の副団長ツキノ。

 ある時期から月曜騎士団団長によってスカウトされた正体不明、経歴不明の女性だ。しかしその実力は高く、瞬く間に副団長へ上り詰めた女傑。

 そんな謎の多い彼女は、ここにみんなに向かって口を開いた。


「やはり――」


 ゴクリ、と重苦しい雰囲気にこの場のいる人々が喉を鳴らす。

 そして。


「――我が月曜騎士団団長の筋肉こそ至高です」


 そんな世迷言を言い放った。


「えぇ……? でもおたくの団長ってそんな筋肉あるかぁ?」


 思い出すのはとある任務で各騎士団長が一斉に会した時だ。

 月曜騎士団の団長は遠目から見ても近くで見ても惚れ込むほどの筋肉を持っているようには見えなかった。だからこそツキノの言葉に誰もが首を傾げる。


「あら、輪郭だけで筋肉を判断するとは貴女たちもまだまだですね」


 浅はかな考えをしている周囲にツキノは不敵な笑みを浮かべた。


「いいですか? 筋肉とはギャップ!! 一見無いように見えるがその実、引き締まっている状態こそが至高! 私はとある村の一村娘でしたが魔獣から助けて貰い、抱き締めて貰えた際に布越しながら団長様の逞しくてお堅い胸板に触れ、それに惹かれてついて来たんです!!」


 あまりの勢いに当初の神秘さは最早、塵すら残らない有様である。


「お、おう……えぇ? スカウトじゃなくて勝手に付いて来て副団長にまで上り詰めたのかよ……どんな執念だ」

「でもそれだけその筋肉への愛が深いって事ですよね!」

「なるほど見えないところにマッスル……これは一理ありますわね」


 初手神秘的(笑)で有名なツキノの性癖開示は多数の支持者に支持された。


「では次はこのオレだな!」


 次は赤く染まった髪を持つ火曜騎士団の副団長フレイアの番である。

 あまりにも豪快、男勝りで有名な彼女は火曜騎士団における姉御的ポジションである。誰からも頼りにされてる彼女の筋肉性癖に興味を抱かずにはいられない。


 その時である。

 別の参戦者からその指摘がやって来た。


「でも火曜騎士団の騎士団長って子供……ですよね?」

「最年少騎士団長に昇進したあの子供ですが……もしや?」

「そのもしやだ! オレが推すのは当然火曜騎士団団長の筋肉だぜ!!」

「そんなっ……ショタのお筋肉ですって!?」

「ショタの筋肉がお好きなんですか!?」

「言い方ぁ!」


 周囲のあまりにもな発言にフレイアがツッコミを入れる。


「はん! お前ら勘違いしているようだがオレはショタコンじゃねぇ……いいか!?」


 ここでフレイアの本格的な性癖開示が始まる。


「筋肉とは努力の証!! アイツの筋肉は子供ながらにかなり努力して得た筋肉! 小さい肉体ながらその硬さは惚れ惚れするほどでオレは何度アイツとの風呂でよだれを我慢して来たか分からんだろう! 子供の癖にあのシックスパックはやばい!」


 なんだろう。滅茶苦茶名言っぽい結論からこのクソみたいな後半は。


「まぁギャップマッスルは先程の例からして一理ありますわね」

「それはそれとしてこの人を逮捕した方がいいのでは?」

「では次はあーしから行きやっしょう!」


 次に名乗り出たのは青い髪を持つ水曜騎士団の下っ端アクアだ。

 下っ端故に下っ端口調で褐色ギャルである。以上。


「あーしがオススメするのはもちウチのすきぴ! すきぴしか勝たん!」

「でも確か水曜騎士団の団長って女性なのでは……?」


 そんな周囲の疑問にアクアはチッチッチと指を振る。


「筋肉ってのは男女平等っしょ!! あのバブみ感じる雰囲気から思えないアスリートみたいな腹筋はマジパネェんすよ!! 一緒に風呂に入った時あーしは思いましたね……柔らかさの中にあるしなやかさと力強さ……あれこそ理想のハイブリッドマッスル!!」


 筋肉は男女平等という言葉に一同電流が走る。

 騎士社会は男社会がメイン。当然騎士団長を務めるのは大体が男性。だからこそ団長の筋肉を自慢する時は男の筋肉に対する話がほとんどだった。

 しかしアクアの言葉によって長く続いたこの談義に新しい風が吹き荒れたのだ。

 こんな軽そうな形をしてこんな真理をついた話を切り出すとは、どこぞのショタコン副団長も見習って欲しい。


「ブラボー……おぉブラボー……貴女の将来はきっと上へ登る事でしょう……」

「なるほどアスリートマッスル……そんなものもあるのか」


 パチパチパチと拍手が会議室を包んだ。


「次は私ですね〜」


 盛況のまま次が来る。しかしそんなプレッシャーを彼女は物ともしなかった。のほほんとした木曜騎士団の平団員フォーラの番だ。


「やっぱりクマさんみたいな内の団長さんですね〜」

「でも……その、貴女の団長様はその……」


 はっきり言って美男美女が普通の七曜騎士団の中で、木曜騎士団団長の外見は普通である。わかりやすく言うなら引き締まった筋肉とは違うがっしりとしたプロレスや力士のような筋肉が特徴の団長だった。


 しかし彼女たちの言葉に受けてもフォーラは笑みを崩さない。

 開眼し、副団長すら慄く圧力を発しながら彼女は立ち上がる。


「……筋肉とは頼もしさ。味方を守るために鍛え上げられたあの筋肉はまさに機能美。強大な敵の一撃を受けてもなお無傷を誇るあの堅牢さはまさに筋肉の中の筋肉。オリジンマッスルなのです〜」


 有無を言わせない圧倒的な説得力。

 そう、古来より人が鍛え上げて得た筋肉は戦うため、そして守るためにある。それを考えれば木曜騎士団の団長こそ、筋肉の原点なのだろう。


 ――だが。


「確かに素晴らしいですわ……ですが、その上で敢えて言いましょう!!」


 そんな彼女と真っ向から対峙するのは、成金趣味を持つ金曜騎士団の参謀ゴルドマリー。金髪縦ロールを揺らしながら彼女が宣言する。


「筋肉とは魅せる物……!! 開いた胸元から覗かせる圧倒的な魅せ筋を持つ私の団長様が一番ですのよ!!」


 まさしくフォーラの性癖とは真逆の性癖。対極の性癖だ。


「薄着、露出、セクシーダイナマイ!! 周囲を魅了し、畏怖すら抱かせ、その全てを支配する! それが私の得た筋肉道マッスルロード!!」


 それもまたもう一つの原点。

 もう一つのオリジンマッスルだった。

 そんな中、一人の少女が立ち上がる。


「……確かに二つの原点、二大性癖の前にどんな性癖があったって霞むと思います」


 特に言うべきことがない土曜騎士団の見習い騎士ドーラが立ち上がる。それでもその眼差しには彼女の将来に期待を抱かせる何かがあった。


「それでも私は!」


 真っ直ぐ、オリジンマッスル求道者と先達の筋肉愛好家へ目を向ける。


「――筋肉とはチラリズムと言い続ける! どんな屈強でも、どんな引き締まった筋肉でも! それは時々捲れ上がった服からたった一瞬覗かせる筋肉の方がいい!! 唐突な一瞬のハプニングから見れる刹那のマッスルこそが私の正義!! その点、油断しがちな私の騎士団長様が一番です!!」


 なんて力強く、可能性を見せる性癖なのだろう。

 副団長も参謀も、果ては同じ可能性を持つ団員も、その見習い騎士を一目置く。

 やがて、この大会も最後の人へとなった。


「最後はボクですか!」


 元気溌剌純粋無垢な日曜騎士団のマスコット、サンちゃん。

 はっきり言って彼女の前で散々とんでもねぇ性癖が開示されて来たがもう後の祭りである。後日、日曜騎士団からの苦情を受け入れるとして、純粋無垢なサンちゃんが一体何を語るのか。そっちの方が気になる面々である。


「ボクはねー!」


 ゴクリと、唾を飲み込む一同。

 そして。




「やっぱり筋肉はエロい方がい――」

『ストーップ!!』

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