エピローグ~SIDE BOYS~

 フローリアたちの再出発を群衆に紛れて眺めていた或鳩たちは、ふう、と一息をついた。


「やべぇ……危うく俺たち、指名手配されるところだったぜ」

「でもそれはそれでアリだよな……想い人を捕まえてまで再会したい、みたいな」


 にやにやと妄想に耽っている星呉と彪の傍ら、或鳩は一人、憮然と白い眼をしていた。


「いい加減にだらしない顔をやめてくれる? 昨夜の寝言だって酷かったよ、『ナタリー、ぶひぃぃ』とか『ああ、ソフィたんぺろぺろ』とか。言ってておぞましい、恥ずかしくないの?」

「だから、ぺろぺろなんか言ってねぇって!」

「いいや、言ってたね」

「オレは睡眠時無呼吸だから、いびきに集中してたろ」

「いいや、合間に喘いでた!」


 未だ興奮冷めやらぬ人の波を逆行しつつ、がみがみと言い争う或鳩たち。ようやく抜け出した頃には、すでにぐったりとしていた。

 気持ちいいはずの朝日が、今は一日が始まったばかりだとを突きつけてくる敵に見える。


「それで、俺たちはどうするよ? 元の世界に帰る方法っつっても、どうやって探すんだ」

「とりあえず、またフローリアたちに付いていくか?」

「悪くない。フローラたちが再び旅に出るなら、護衛の任務も契約更新されているだろうしね」


 何気ない彪の提案に、或鳩がうきうきと頬を緩める。


「アインシュタイン曰く『誰かの為に生きてこそ人生には価値がある』。帰る方法を探すついでだ、もう少しだけ勇者育成に付き合ってあげよう」

「素直じゃないなぁ。俺は乗ったぜ!」

「オレもだ!」


 賑やかな足取りで、三人は遠くに見えるフローリアたちの背中を追いかけはじめた。

 この場に集っている国民たちは、彼らこそが国を救ってくれた英雄の一員なのだとは誰も気がつかないだろう。しかし、仮に誰かが気づいたとしても、そんな評価など、或鳩たちにとってはどうでも良かった。


「なぁ、元の世界に戻ったら何がしたい?」


 城壁の向こう側を眩しそうに見つめながら、彪が問う。


「そうだね……せっかく異世界を旅したんだ、伝記でも書こうよ。タイトルは『冴えない僕らが異世界召喚されても、勇者にはなれませんでした。』とかどうかな?」

「冴えない? お前が自虐ネタとか正気かよ!?」

「黒龍と戦った時に頭でも打ったのか!?」


 くわっと目を剥いて、こちらの後頭部を触ってくる彪から身を捩る。しかしそのまま羽交い絞めにされてしまい、前から瞳孔の診断をしようと星呉がにじり寄ってきた。


「はーなーせー!」


 じたばたともがき、やっとの思いで解放された或鳩は、息を荒げながら指を立てて見せる。


「これは社会的慣習へのやむを得ない屈服だ。僕ら三人のうち二人も冴えない奴がいるんだから、僕様一人が天才でも仕方がない。敢えて『勇者になれない』と示すことで否定系タイトルの条件も満たせるしね。不本意だけれど、君たちのことも記載するならこれが妥当だよ」


 肩を竦めて見せると、彪たちは信じられないものを見たような顔で硬直した。


「ほら、何をぼさっとしてるのさ? 紡ぐ物語には、君たち二人が必要なんだ。行くよ!」


 そう言って背を向けた或鳩に、彪と星呉は顔を見合わせて苦笑する。


「よっしゃ、オレたちの戦いはこれからだ!」

「「彪、それ禁句」」

「すまん……」


 肩を並べて城門を抜けたところで、ふわりと風が吹きぬけた。

 或鳩たちは目を細め、揺れる髪をやり過ごす。朝の風は春の優しさを運んでくる一方で、まだ冬の名残に肌寒さをも置いて去っていく。まるで、これからの旅路を予感させるようだ。

 しかし、腰のエアヴェルメンが陽の光を反射して煌めいている。大丈夫だと、やれるのだと。


「……言われるまでもないさ。なんたって僕様は、天・才! だからね!」


 どんな風でも、追い風に変えてみせる。綻んだ或鳩は、広大な大地へと一歩を刻みつけた。


――fin?

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Behind the Brave!!~冴えない三バカが異世界召喚されても、勇者になんてなれませんでした~ 雨愁軒経 @h_hihumi

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