エピローグ~SIDE GIRLS~
翌朝。フランドルフ城前の広場には人だかりができていた。
深い傷を負っている者。無事に再会できた愛する人と身を寄せ合っている者。惜しくも殉職した勇敢な騎士の兜を抱いている者。逆境に負けじと移動販売を始めている者。
顔ぶれは様々だが、彼らの目は、じっと中央に注がれている。
そこには、王の前で片膝をつくフローリアたちの姿があった。
「本当に行くのか? もう少し、戦いの疲れを癒してからでも……」
エドワード王の心配げな表情に、フローリアは首を振る。
「いけません。此度の黒龍の件、そして、昨日報告しましたクライネ村の件。おそらく他にもまだ、苦難に喘いでいる人々がいるはずですから」
彼女はそこで言葉を切り、顔を上げて微笑んだ。
「お父様こそ、ご自愛くださいましね?」
「なに、心配するなフローラ。お父さんもこの程度の怪我で臥せってなどおれぬよ」
包帯をぐるぐると巻いた腕を掲げて豪快に笑った国王は、はたと我に返り、咳払いをする。
「こ、これフローリア! 公事では国王と呼ぶよう申し付けたではないかっ!?」
王と姫。それは同時に父と娘でもある。そんな和やかな雰囲気に、観衆から笑い声が湧いた。
「うぉっほん! して、フローリアよ。私たちにできることがあれば、いつでも頼るのだぞ」
「ありがとうございます。では、一つだけ。もし、私たちが旅に出ている間、王都でアルク、アキラ、セーゴという三人の青年を見つけた時は――」
そこで、フローリアは目を伏せる。本当にこれは、誰かに頼むべきことなのだろうか。
いや、と小さく微笑んだ。こんなことをしなくてもきっと、どこかでまた会えるだろう。
「……いえ、やはりなんでもありません」
背後でソフィアが噴き出し、ナタリーまでもが可愛らしく笑っているのが聞こえる。強がっていると思われるのは癪なので、後手に剣の鞘尻で小突き、黙らせておいた。
「そ、そうか、相分かった」
人目もはばからずじゃれ合う娘たちに、エドワード王が戸惑いながらも頷く。
「しかし、良いのか? この旅路、そなたが描く願い通りには行かぬぞ」
そう言ってかけてくれた眼差しには、後継者を育てる王として、そして娘を案じる父としての、二重の想いが含まれていた。
「解っております。しかし、深く傷ついた皆さまを前に申し上げるのは恐縮なのですが、今の私は、最高に気持ちが昂ぶっているのです。姫として、勇者として、そして一人の人間として」
王は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに微笑み、それ以上何も言うことは無かった。
「不肖、フローリア・フォン・フランドルフ=アデレイド!」
「ソフィア・フォルモント!」
「ナタリー・ラインリープ!」
彼女たちは最後に、一度だけ深く頭を下げると、
「「「行ってまいります!」」」
凛と顔を上げ、巻き起こった歓声の中、新たな旅路への一歩を踏み出した。
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