ランドマークタワー

緋雪

ランドマークタワー

太賀たいが、お待たせっ」

トイレで化粧を直していた美智留みちるが走って帰ってきた。

「おう」

俺は辺りを見回しながら言う。誰も知り合いがいないことを確認した。

「こんなに人が来るもんなんだな」

「そりゃそうだよ。お祭りだしさ。やっと開催できたんだし」

「まあ、そうだな」

新型ウイルスが世に蔓延まんえんし、多くの死者を出し、散々行動制限をさせられていたのだからな。やっと普通の生活が戻ったのだ。いつも通り……いや、いつもに増して人が集まるのは不思議ではない。


菜美なみ来てないかな? はやて君と来てるらしいんだけど」

「え?あいつらつきあってたの?」

「えっ?知らなかったの?」

「へえ。そうなんだ」

「ねえ、太賀、見当たらない?」

「こんだけいたらわからねえよ」

「ランドマークタワーでもダメか。まあいいや、行こっ」

「おいっ」

美智留は、俺の手をキュッと握ると会場の中へと入って行った。


 ランドマークタワーなあ……。確かに身長が194cmある俺は、周りから頭一つ違うので、目立つ。しかも、ヒョロっとではなく、ガシッと。なので、みんなの集合場所にされたりもする。遅れてきた奴や迷ってる奴を探すのも簡単だしな。

 だが、逆を返せば、「目立つ」のだ。何にもしてなくても、人が見ていく。

「なに今の人凄いんですけど〜」

ほら、今も、女子二人、そう言いながら通り過ぎて、二度見している。あー、でも、美智留の方を見てたのかな?

 だって、ここは……



「写真いいですか〜?」

美知留がカメラを持った男に声をかけられている。

「いいですよ〜」

美智留がポーズを決める。1人、また1人と増えて、美智留の前に人だかりができて、みんながカメラを構え、何枚も撮っていく。……おいおい。

「おい、行くぞ」

美智留のところに行くと、ある種類の男どもは、ササッと、何もしてませんよと言わんばかりに他所よそへ行く。一様に、眼鏡をかけ、猫背気味にリュックを背負い、いいカメラを持っていた。量産型なのか?



「なんでそんなカッコなわけ?もうちょっとさ……なんていうの? あっただろ?」

「『ブルークリスタル』のミチルじゃん」

「いや、名前から入るタイプ?」

美智留は、際どいビキニにいろいろ装備がついた、ブルークリスタルというアニメの主人公の一人、ミチルの衣装を着ている。

 俺としては気が気ではない。美智留はスタイル抜群。もう、こんな際どいコスチュームとかありえない。ほらそこ、胸撮るな! 尻撮るな! 俺のだぞ!


「あはははは」

「なんだよ」

「こいつの乳撮るなよ! 俺のだぞ! って顔してる、今」

「なっ……いや……」

「でもさあ」

「なんだよ」

「目立ってるの、太賀の方だからね?」

「は?」

まあ、俺、でかいからな。

「写真撮られまくってる、さっきから」

「俺が?」

「うん」

周りを見渡すと、俺にカメラやスマホを向ける女の子たち。

「え?」


 足を止めると、二人の女の子が俺の前に走ってきて、

「写真、いいですか?」

と言ってきた。

「写真?俺の?」

戸惑っている俺の背中をバシバシ叩いて、美智留が笑っている。

「あんた、何のカッコしてるかわかってる?」

「え? あーっ!」

忘れていた。美智留に向けられる男たちの視線から、彼女を守るように歩くことしか考えてなかったが――


「オーウェン様!! ポーズ決めてあげなよ!」

美智留は大笑いだ。

 そう言えば。そう言えば、ここはコスプレ会場で、俺は、(朝から美智留が用意して無理矢理着せた)『ブルークリスタル』の勇者、「オーウェン」の格好をさせられていたのだった。

「うわー、恥ずっっ!!」

そう思いながら、美智留に聞いた。

「どうするんだよ、これ?」

もう辺りはカメラを持った、女の子の山だ。

「さあ?手、グーにして、腕曲げてみたら?」

「こうか?」

上腕二頭筋が反応する。

「キャー!!」

女の子たちの声。

「オーウェン様、筋肉ヤバっ!!」

「腹筋めっちゃ割れてるし〜」

「背高〜〜い!!」

その後、美智留に命じられるままに、いろんなポーズを取らされ、被写体になっていた。隣で、美智留も好きにポーズを取っている。



「あはははははは!!」

向こうの方から声がして、菜美と颯が来た。

「めっっちゃ目立ってるぞ、お前ら。」

「知らねえよ、朝から未知留にこんなカッコさせられて、はずかしめられてるの!」

「え〜、カッコいいよ、太賀くん〜!!」

菜美に言われる。



 えっ? 俺ってカッコいいのか?? 単なる筋肉バカだと思ってたのに……。


 こんな筋肉ランドマークタワーでも、モテる場所もあるんだなあ……。へぇ〜。と、ちょっといい気になっていた。俺、こういうの向いてるのかもしれない……かも? かも? なんて、変な期待。



「いてっ!!」

美智留に思いっきりつねられた。

「もー、太賀は連れてきてやんない」


 なっ、なんなんだよ!!

 お前が無理矢理着せて、無理矢理ポーズ取らせてるんだぞ!!



 ほんっと、女ってわかんない生き物だな。ため息をつく。そして……


 ちょっと拗ねながら、ポーズを取り続ける美智留のことを、改めて可愛いと思ったのだった。

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ランドマークタワー 緋雪 @hiyuki0714

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