ザ・マッスル -世紀末筋肉男伝説-

人生

君の筋肉は輝いてるかい?




 科学技術が発展した現代社会、人間にあってAIにないものとはなんだろう――


 そう、筋肉だね!




 大きなトラブル……事件や事故、災害等に見舞われた時、僕の心は不安でいっぱいになって、肝心な時に動けなくなる。心を強くもたなければ、大事な人を助けることも出来ない。しかし心は身体と違って、そうそう鍛えられるものではない――


 そこで僕は気付いた。


 身体なら、鍛えることが出来る!


 その日から、僕は筋肉を鍛え続けてきた。

 筋肉はいつしか、僕の心を守る鎧になっていった。


 そう、自信になっていたんだ。


 しかし、現実は過酷だった。


「お前のはただの『見せ筋』だ。クソの役にも立たねえ」


「重いだけの筋肉なんて、救助の邪魔にしかならない」


 ――僕のかたちだけの筋肉では、彼ら筋肉戦士のようには誰かを助けることは出来ないと知った。


 僕の筋肉は、自分を守るためだけのものでしかなかったのだ。


 僕の心は挫け、筋肉も傷ついた。

 だけど筋肉は、回復する過程でより肥大し、さらに強くなる――そう、超回復が起こるのだ。


 今はまだ、力仕事が出来る程度の偽筋にせきんだけど、それでも世のため人のために頑張鍛えれば――


「筋肉、筋肉って……馬鹿みたい。でも、ありがと。ちょっと救われた」


 ――こんな僕でも、誰かを救えるようになるかもしれない。


 そういう筋肉に、僕はなりたい。



「いいのかい? その筋肉を借りてしまっても」


「はい。筋肉はまた鍛えればいいだけですから」



「僕の筋肉を分けてあげるよ」


「ありがとう、お兄ちゃん!」



「筋肉が、足りないんだ」


「僕の筋肉を使うといい」




 ――そうして彼は、人々に自分の筋肉を分け与えていきました。


 今も、人々の筋肉こころの奥底に、彼のきんにくは息づいています。


 あなたが誰かのためにと力を奮い起こした時、それでも志半ばに力尽き膝を折って地に伏した時――諦めないで立ち上がろうとするあなたに力をくれる、最後の筋肉。


 愛という、筋肉が――



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ザ・マッスル -世紀末筋肉男伝説- 人生 @hitoiki

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