令嬢はマッチョに憧れる
ちかえ
令嬢はマッチョに憧れる
また失敗してしまった、と、わたくしはため息を吐きました。
新作魔法を使ってみたのですが、私の体はいつも通り弱々しいままです。あんなに頑張ったのだから腕の一本、いや、せめて指の一本でも筋肉質になっていなければおかしいですのに。
愛する人と同じような筋肉質な体になりたいと日夜努力しているのに、ちっともむくわれません。
筋肉質の害獣の爪を薬に煎じて飲んでみたり、筋肉質な体の構造になるようにマナを込めてみたりしたのですが、どれも上手くいかないのです。
「マリーザ、またそんな事をやっているの?」
お母様が部屋に入ってきました。わたくしはとりあえず笑顔を作ってそれを迎えます。
「あんな方の何がいいのだか。貴女と同じ第二等貴族の令嬢達は王子殿下や第一等貴族の令息を狙っているというのに、あなただけあんな腕っ節が強いだけの第四等貴族の五男などを」
「ただのわたくしの好みです」
ばっさりと切ります。人の好みはそれぞれなのですから放っておいて欲しいものです。わたくしは王子なんかどうでもいいのです。大体、わたくしの好きな方は『ただ腕っ節が強い』どころかその腕っ節で王太子殿下をお守りしているのです。
「それなら貴女の方が身分が高いのだからさっさと囲ってしまえばいいのです。それをあなたは、彼と同じような筋肉質になってアピールするだなんて世迷い事を……」
「世迷い事ですって!」
とても聞き捨てのならない言葉に、つい礼儀も忘れて怒鳴ってしまいました。
興奮するわたくしに対して、お母様はほがらかに笑っています。
「そんな事をしているうちに彼はどこかにお婿に行ってしまうわよ」
「それはないです。だって彼は女性に興味がなさそうでしたもの」
それは貴族達の中では有名な話です。どうやらどの縁談も断ってしまったとか。
きっと普通の女性はお気に召さないのでしょう。だったら他の女性とは違うところを見せればいいのです。
だからわたくしも彼と同じ筋肉質になろうと努力しているのです。そう。努力しているのですが。
そこまで考え、今までの失敗した魔法薬の材料を見回してため息を吐きます。確かにこれではいつになってしまうか分かりません。
お母様はそんなわたくしを見て呆れた表情をしています。
「そんなに筋肉質になりたければ専用の教師を雇えばいいのです。そんなマナを無駄にしなくとも」
「え?」
「明日から来てもらうことになってますからね」
思いがけない事にわたくしはつい目をぱちくりしてしまいます。
どうやら両親はわたくしの事を応援してくれるようです。
わたくしは素直にお礼を言いました。
***
しかし、これは全く想像していませんでした。
「はじめまして、マリーザ嬢。ルイージと申します」
目の前に立っているのはわたくしの愛する人なのです。どうやら王太子殿下に頼んで彼の時間を作っていただいたようです。
「は、はじめまして」
対するわたくしは緊張のあまり噛んでしまいました。
お母様、分かっててやりましたね。酷いです。いえ、嬉しいんですけど、こういう時はどうしたらいいのでしょう。
どうやら両親はわたくしがマナだけでなく腕っ節の面でも国に貢献できるように体を鍛えたいのだと説明したらしいのです。それはありがたいです。彼に近づきたいから筋肉をつけたいなんて不純な動機、知られたら幻滅されてしまいます。おまけに両親の言った動機ですが、偉いと褒めていただいて天にも昇る気持ちです。
でも、今までのやり方は叱られてしまいました。彼は筋肉をつける近道は筋力トレーニングや食事に気をつける事しかないと言います。
それならやってやりましょう。
おまけに彼とお知り合いになれたのです。
トレーニングを通して少しずつわたくしを知ってもらいましょう。
いろんな意味で頑張るぞ、とわたくしは心の中でしっかりと気合いを入れました。
令嬢はマッチョに憧れる ちかえ @ChikaeK
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